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第2回 障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)セミナー「ダイバーシティの力で競争力を高める」

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2023.6.30

採用担当者、受け入れ部署の上長、役員など障がい者雇用に携わる、関心がある方々が集う障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)が2023年5月17日(水)に第2回セミナーを開催。WEBアクセシビリティの取り組みと障がい者雇用の可能性について議論しました。

執筆:パラちゃんねる運営事務局

はじめに

2022年1月に障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」をオープンして1年以上が経ち、これまで3000社を超える採用担当者と対話を繰り返してきました。

  • 障がい者雇用のはじめ方がわからない
  • 業務の切り出し、受け入れ部署の開拓ができない
  • 相談する場所がない
  • 新卒採用と兼業で手が回らない
  • トップが障がい者雇用にネガティブである etc

障がい者雇用担当者は、役員と現場の狭間で理想と現実のギャップに日々悪戦苦闘しています。教育課程での構造的分断がある日本においては「働く」を通じた共生社会の実現が求められ、旗振り役となる障がい者雇用担当の積極的な社内活動が必要不可欠です。

そこで、私たちは、障がい者雇用担当を後押しするチームとしてコミュニティを形成し、職場での雇用促進に向けて全面的にサポートすることとしました。

障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)には、既に30社を超える障がい者雇用担当者が集い、互いの悩みや課題を共有し、障がい者雇用のあるべき姿を模索し続けています。

第1回セミナーはこちらから↓

今回は、FLAT(ふらっと)主催セミナー「ダイバーシティの力で競争力を高める」についての活動レポートをお届けします。

>ファシリテーター
NPO法人Collable(コラブル)の代表理事 山田小百合さん。障がいのある人たちや多様な人との共創の場をつくるCollable(コラブル)は、ワークショップを通じて「インクルーシブデザイン」の普及や、障がいの有無をこえた場作り、それらの啓発活動を行っています。

>ゲスト
株式会社SmartHRでプログレッシブデザイングループ マネージャーの桝田草一さん。アクセシビリティスペシャリストとしてクラウド人事労務ソフトSmartHRなどの自社製品のアクセシビリティ向上に取り組むと同時に、障がい者雇用の創出に尽力されています。

>オブザーバー
パラちゃんねるのオーナー 中塚翔大。2020年4月に多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」を立ち上げ、ラジオ・コラムのメディア活動と障がい者雇用特化型の求人サイトを運営し、「誰もが特性を活かせる、多様な選択肢のある社会」を目指して活動しています。

当日は17社の採用担当者、WEBアクセシビリティ担当者にご参加いただき、WEBアクセシビリティの取り組みと障がい者雇用の可能性について課題を検討しました。

アクセシビリティテスタープロジェクト発足!広がる障がい者雇用の可能性。

≪株式会社SmartHRの会社概要≫
事業内容: SmartHR の企画・開発・運営・販売
設立:2013年1月23日
資本金:9990万円
所在地:東京都港区六本木3-2-1住友不動産六本木グランドタワー
従業員数:840人(うち役員・社員794名/2023年5月1日時点)


プログレッシブデザイングループとは、クラウド人事労務ソフトSmartHR製品を誰でも使える状態にすることを主な目的としたアクセシビリティ向上や多言語化対応の専門部署で業務環境的差異・文化背景的差異・身体特徴的差異・主義心情的差異・その他諸々の差異をすベて受け入れるサービスを目指して発足されています。

まずはプログレッシブデザイングループにおける桝田さんの役割と障害者雇用の状況について教えてください。

SmartHRの障害者雇用状況(現在):アクセシビリティテスタープロジェクトの組織概要。

>桝田草一
2022年1月よりプログレッシブデザイングループのマネージャー兼アクセシビリティスペシャリストとしてプロダクト全体のアクセシビリティ向上の責任を担っています。現在、プロダクトサイドのプログレッシブデザイングループには視覚障害者1名、プログレッシブデザイングループにアクセシビリティテスターとして肢体不自由者が2名、視覚障害者が1名います。また人事管轄で労務の中に沖縄サテライトオフィスを設け、精神障害者8名が在籍しており、プログレッシブデザインと労務でアクセシビリティテスタープロジェクトを実施しています。
※一部のみ(ほか事業部でも障害者手帳を持っている人がいます)


プログレッシブデザイングループが発足された経緯について教えてください。


>桝田草一
プロダクトのアクセシビリティ向上に対する発信を強化していく中でアクセシビリティスペシャリストとして活動していた全盲の視覚障がいがあるエンジニア 辻勝利さんの入社が決まり、専門分野に合わせたキャリア設計が必要になると考えてグループを独立するに至りました。


辻勝利さんは前職でSmartHRのユーザーだったと伺いました。視覚障がいがあっても年末調整が自己完結できることに感動して一緒に働きたいと応募されたそうですね。


>桝田草一
視覚障がいなどの特性があると年末調整などの社内申請作業において労務担当に代理入力をお願いする場合も少なくありません。労務担当なので既に当事者の情報は持っているはずですが、といはいえ改まって伝えたくはない情報もあるわけですよね。改めてアクセシビリティの重要性を考えるエピソードになりましたね。


障がい者雇用が生み出す多様性と意識の変化

アクセシビリティテスタープロジェクト発足にあたり、桝田さんから人事部に障がい者雇用としての受け入れを打診されています。現状の障がい者雇用の多くは、人事部から各部署に受け入れをお願いするケースがほとんどですが、どのような考えがあったのでしょうか?


>桝田草一
アクセシビリティを専門領域にしているとユーザビリティテストをする機会があるのですが、その際に外部の協力会社を利用するため、柔軟性という点で不便な部分がありました。そのため、常に社内にいてくれたら便利だなと思ったのがきっかけです。それに、特性がなければテスター業務は務まらないため、特性を強みと捉えることで、やりがいも感じられるはずで一石二鳥の取り組みになると考えました。

当初は障がい者雇用のための業務の切り出しを人事部より依頼されていましたが、コミュニケーションコストやマネジメントコストを考えても障がい者雇用のために業務を作り出すことには消極的だったので、敢えて自ら逆提案に動いたという感じです。


アクセシビリティテスタープロジェクトには、現在13名の障がいのある方々が所属しています。実際にテスター業務の内製化を実現してみて感じる効果や課題はありますか?


>桝田草一
業務面で言えば、内製化したことで緊急性の高い案件にも対応が可能になったという効果はもちろんありますが、何より身近な同僚に特性のある方がいることで、社内の意識変化が生まれたことが大きいと感じます。一緒に働いているからこそ資料や社内ツールなどの全てにおいて全員が困ることなく利用できるようにしなきゃとの考えが根付きつつあります。

一方で、アクセシビリティテスターのキャリアについては上位にあるアクセシビリティスペシャリストと基盤的位置づけにあるテスターとの間を埋めるキャリアパスを構築することができておらず、業務、待遇、研修など課題はまだ多いです。


アクセシビリティテスターチームの内製化をすることがDiversity&Inclusionな 組織開発へ影響を与え、最終的なサービス改善にも繋がっていくという理想的なプロセスを歩まれているように感じますね。


セミナー参加者とのQ&Aセッション

当日は、セミナー参加者からもたくさんの質問をいただきました。
Q. 雇用契約書の基本的な就業時間を100とした場合、アクセシビリティテスターの稼働率はどの程度でしょうか?


>桝田草一
リーダー業務を担当する方だとテスト計画や手順書、報告書作成などもあるため業務量は100以上になることも多く、残業時間を管理しながら業務に従事してもらっています。テスター業務においては濃淡がありますが、会議の文字起こし や動画の字幕作成など業務の幅を少しずつ広げているため常時80~90ぐらいはあると考えています。

ちなみに会社全体のテスター業務の量については、自社プロダクトの機能開発や改修が日々続いているので作業計画が全く追い付いていないというのが現状です。


Q.2024年4月に障害者差別解消法の改正により合理的配慮が義務化されます。WEBアクセシビリティへの取り組みは企業としても重要になるため、テスター業務の導入の可能性も検討できるかもと考えました。人事としては、どういう部署にアプローチすれば良いのでしょうか?


>桝田草一
まずはプロダクトの責任を担っている部署へアプローチすることになると思います。また 、テスター業務の導入には、テスト計画の策定はもちろん、テスト結果をもとに開発チームとのコミュニケーションが必要となります。そのため、アクセシビリティスペシャリストのような専門家がいなければ効果的な運用は難しく、専門家が社内にいなければ、社外の専門家を頼りながら段階的または部分的に内製化というプロセスが大切かもしれません。


Q.アクセシビリティテスターを担当する方の意見のバイアスがあると思いますが、どのように品質は担保しているのでしょうか?


>桝田草一
最低限の品質担保としてはWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0というアクセシビリティのガイドラインをベースとしています。その上で、個々のテスターの特性や志向によるユーザービリティへの意見は、個別に検討しています。現在は、基準ができていませんが、今後はガイドライン外の範囲についても基準を作っていく必要があると考えています。


Q.WCAG2.0は、主に視覚障がいを対象とした情報保障が強く打ち出されている気がしています。認知面における特性を加味したアクセシビリティは対応範囲としていますでしょうか?


>桝田草一
認知面の特性を加味したアクセシビリティについても今後対応範囲に入れていきたいと考えています。ただし、認知の特性は幅が広いのでテスターの採用やあるべきアクセシビリティについても熟慮が必要と考えています。例えば、UIだけの問題ではなく、知的障がいのある従業員には後見人もログインできる必要があるのではないか、といった議論も必要になります。今後、機能開発まで私たちが参加していく必要があるのだろうと想像しています。

ゲストからのメッセージ

さいごにゲストより感想をいただきました。


>桝田草一
今回は我々の取り組みを共有する機会をいただいてありがとうございました。私自身が障がい者雇用についての知識や経験がなく、自らの取り組みについて客観的に見れていません。そのため、参加者のみなさんからの質問や感想、一つ一つが新鮮でした。今回お話したような取り組みは、なかなかすべての事業者で行うには難しいと思いますが、情報を発信することで似たような取り組みが広がればいいなと思っています。

セミナー参加者のアンケート結果

■セミナー満足度
非常に良かった:80%
良かった:10%
あまり良くなかった:10%

セミナー満足度の理由をお聞かせください。

  • 障がい者雇用先がけの為、話している内容のレベル感の違いがあった。
  • 障がいがあっても、一緒に働く仲間として一般社員と同じようにキャリアについて考えていくご担当者様の考え方、素晴らしいと思いました。そういった考え方のベースに基づいた業務設定やマネジメント等、弊社でも参考にさせていただけるところがたくさんありました。
  • アクセシビリティという観点から障がい者雇用を捉えると、まだまだ領域が広がる可能性があるな、と思った。
  • 特にWeb系において、サービスプロダクトを持っている企業においては、障がい者雇用のジョブを創出する可能性が大きく、どちらかというと営業・販社機能が強い会社におけるジョブ創出は、なかなか難しいものがあるなと感じた。
  • アクセスビリティと障がい者雇用の親和性の高さを、実例を以ってお話してくださったので非常にわかりやすくイメージがつきやすかったです。難しさや課題についても包み隠さずお話いただき、非常に学びになりました。ありがとうございました。
  • 社会的にも必要性が増していくであろうアクセシビリティの分野で特性を活かした新しい障がい者雇用の形が既に実装されていることに大きな可能性を感じます。
  • 当社はプロダクトを持たない事業領域ですがHRとして発信をしていくことの重要性を感じました。また途中の質問でJOB型雇用についても議論がありましたが、自社でも障がい者社員のキャリアについて課題を感じているので興味深い内容でした。
  • 障害者雇用の取り組み内容について、具体例を交えながら知ることができて勉強になりました。今後、包括的な社会実現に向けて、アクセシビリティに関する要請や社会ニーズは高まっていくだろうなと思いました。
  • 障がい者雇用にあたってジョブをどう提供するか、継続雇用にあたって出てくる問題等の解決の糸口をもらえた。

障がい者雇用担当と言っても知識・経験が最初からあるわけではなく、ノウハウや相談相手もいない中で悪戦苦闘しながら前に進んでいる現状があります。

障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)は、セミナーや交流会を中心とした場づくりをもとに情報を集約することで、障がい者雇用担当者のニーズに合わせた資料提供など社内における適切な雇用促進のサポートをしていきます。

障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)は、Facebookの非公開グループで運営しております。興味・関心のある方はパラちゃんねる運営事務局までお問い合わせください。

第3回障がい者雇用担当者交流会FLATセミナー開催のご案内

好評につき第3回 FLATセミナーの開催も決定しました。

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■テーマ
他社の事例から学ぶ交流会
~小売・サービス業界での、店舗における障害者雇用の可能性~
日時:6月14日(水)12時~13時
方法:Zoomによるオンライン
定員:30社まで
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後日、セミナーの開催状況については報告します!

多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」は、2020年より「知る」を広げるラジオ・コラムのメディア活動に加え、「自由な出会い」を創出する障がい者雇用特化型の求人サイトを運営しています。

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