車いすユーザーの働く上での困りごと③職場環境編

空の電車の車両内と大きな窓からの景色。通勤時のパニック障害の症状と向き合うシーンを表しています。

車いすユーザーが抱える、目に見えない障害への配慮がある職場環境とは?

この連載は、車いすユーザーが働く上でどのような困りごとがあるのか、どのようにすればその問題が解消できるのかについて、私の例を踏まえながら解説していきます。

第3回目は、車いすユーザーに適した職場環境についてご紹介します。車いすユーザーに適した環境と聞くと「段差を解消する」「多機能トイレを設置する」のようなハード面の整備をイメージされるかもしれません。これらの視点はもちろん重要です。しかし、車いすユーザーの中には、目に見えない障害を抱えている方もいるため、それらの症状を踏まえた上でハード面を整備する必要があります。

そこで今回は、車いすユーザーの中でも特に脊髄損傷に焦点を当て、目に見えない障害への配慮がある職場環境について解説します。

当事者しか知らない多機能トイレの必要性

「車いすユーザーに適した職場環境において必要な設備は?」と聞かれると、多機能トイレを思いか浮かべる方は多いのではないでしょうか。

では、なぜ車いすユーザーが多機能トイレを必要とするかご存知でしょうか?その理由は大きく2つあります。

職場のバリアフリーなトイレの内部。手すり、洗面台、便座が使いやすく設計されています。

1つ目の理由は、車いすから便座へ移乗するときに、一般トイレだとスペースが狭く車いすを横付けできないからです。

便座に移乗するときは車いすを便座に対して45~90度の位置にセットします。そのため、一般トイレだと仕切りの壁が邪魔になり、車いすを便器に横付けできません。つまり、移乗に必要な十分なスペースを確保するために多機能トイレが必要となります。

ちなみに、多機能トイレの手すりは、移乗の邪魔にならないように跳ね上げられるようにできています。また人によっては、右半身と左半身で麻痺の程度が異なることから、移乗の方向に得意不得意がある方もいます。

もし職場に多機能トイレを2箇所以上設置できる場合は、トイレ内における便器の設置位置を変えるとより多くの方が利用しやすくなります。

車いすに座っている男性がバリアフリーのトイレを使用しようとしている様子。職場環境におけるアクセシビリティの問題を示しています。
多機能トイレに車いすを横付けした様子

2つ目の理由は、排尿する際に医療行為を伴うからです。

私は膀胱直腸障害により、自力で排尿することができません。そのため、日中は自己導尿といってカテーテルを尿道から膀胱内に挿入して排尿をしています。

自己導尿は体内に異物を入れることになるため、手指や尿道口の消毒を念入りに行う必要があります。また自己導尿後には、使用したカテーテルを水洗し清潔な状態にします(使い捨てカテーテルの場合は必要ありません)。

そして、これらの処置をする場合、一般トイレでは設備が整っていないので、衛生状態を清潔に保つことができません。また一般トイレのように他人の出入りがある中で自己導尿をするのは、周囲の目が気になるという精神的な負担もあります。

このように自然排尿ができないことから脊髄損傷による車いすユーザーは多機能トイレを必要とします。

最後に補足です。脊髄損傷者の中には、排泄障害を理由に、腹部に人工肛門・人工膀胱を造設している方(オストメイト)がいます。

街の多機能トイレに下の写真のような設備を目にしたことのある方もいるのではないでしょうか?これは、オストメイトの方が装具や汚れ物を洗うための設備です。もし社員の中にオストメイトの方がいる場合は、このような設備も必要となります。

職場環境における車いすユーザーのためのバリアフリーの洗面台。手すりや使いやすい蛇口が備えられています。
オストメイトの設備

当事者しか知らない空調設備の必要性

脊髄損傷の中でも頸髄(首の脊髄)や胸髄の高位部分を損傷すると、自律神経障害により体温調節が難しくなることがあります。具体的には、汗をまったくかかない体になります。

人は、発汗や皮膚の血流量を増減することで体温を一定に保っているのですが、汗をかけない人が、夏場のように高温多湿の環境で過ごすとどうなるかイメージできますか?

端的に説明すると、気温があがっても体の熱を放出できないため、体内に熱がこもります。実際に夏場の炎天下で何も対策せずに1時間ほど過ごすと、体温は38度近くまで上昇します。

体温調節障害があると、健常者よりも自力で体温をコントロールしにくいため、空調などで管理する必要があります。

職場で働くことへの不安を感じる方もいるかもしれませんが、夏場でも自己管理をした上で、空調設備の整った室内で過ごすことは問題ありません。

ただ、ときには通勤中などに熱がこもり、しんどくなる方もいると思います。その場合は、空調の温度を20度ほどに設定した涼しい部屋で、体を冷やし体温を下げる必要があります。

つまり、万が一のときに避難できる休憩室があるとより安心して働くことはできるでしょう。休憩室がない場合は、そのときに使っていない会議室を一時的に休憩室にするという手段もあります。

空の電車の車両内と大きな窓からの景色。通勤時のパニック障害の症状と向き合うシーンを表しています。
体温調節の自己管理(クビにアイスノンをあてる)

体温調節障害は、外見では分からないため、休憩室で休む機会が多いと「サボっているんじゃないか」と周囲から誤解されることがあるかもしれません。

もちろん業務に支障がないように自己管理を徹底することは大前提ですが、時と場合によっては一時的に休憩を要することがあります。目に見えない障害は周囲の理解が最も重要かもしれません。

まとめ

今回は車いすユーザーに適した職場環境をテーマに、特に目に見えない障害を踏まえた環境整備について解説しました。次回は、車いすで移動するからこそ生じる不便を解消するための環境整備について取り上げます。

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ABOUT ME
中村 珍晴(ちん)
1988年生まれ。大学1年生のときにアメリカンフットボールの試合中の事故で首を骨折し車椅子生活となる。その後、アメフトのコーチを6年間経験し、現在は、大学教員としてスポーツ心理学の研究とアスリートのメンタルトレーニングを実践しつつ、YouTubeチャンネル「suisui-Project」で車椅子ユーザーのライフスタイルを発信している。