障害受容の難しさ①そもそも障害受容とは?

病院のベッドに横たわり、花束を持つ男性。

社会復帰するためには障害受容しなければならないのか?

中途障害者が社会復帰する上で「障害受容」は大きなテーマです。しかし、当事者の立場からみると、特に医療・福祉の世界では「障害受容」という言葉がひとり歩きし、誤った認識が広まっているように感じます。

そこで今回は「そもそも障害受容とはなんだろう」という疑問について、当事者としての経験と研究の知見を踏まえて解説します。

そもそも、障害受容とは?

そもそも障害受容とは、どのようなものでしょうか?

障害受容は、以下のように定義されています。

障害を直視し、障害に立ち向かい、障害とともに生きることも自己の生き方の一つである受け止め、生活していくことである(清水,2012)。

簡単に説明をすると「障害のある自分を受け入れ、新しい生活を築いていくこと」が障害受容です。この定義自体に問題があるわけではありません。

しかし、現在の日本では「社会復帰するためには障害受容しなければならない」という誤った認識があるように感じます。

私が事故で入院していたときに「あの人は障害受容していないから、リハビリに集中できていない」という医療従事者の声を聞きました。これはまさに障害受容が社会復帰の第一歩であるという認識を表しています。

しかし、障害受容は、社会復帰するための第一歩ではありません。

障害受容に関する論文を調べると、障害を受容するまでには様々な心理的プロセスがあり、受容は最終的に至るものであると位置づけられています(上田,1980)。

また一度受容したと思っても、ふとしたきっかけにより、障害について思い悩むこともあります。

つまり、障害受容とは、自分の体と心に向き合い、様々な経験をして、ふと振り返ったときに「障害に対する捉え方が少し変わったかな」というイメージの方が近いです。

そのため、意識を変えるだけで「よし!障害を受容した!」と簡単にできるものではなく、行動した結果として生じるものが障害受容です。

病院のベッドに横たわり、花束を持つ男性。

なぜ、社会復帰のために障害受容が必要と考えられるのか

では「社会復帰するためには障害受容をしなければならない」という認識がなぜ問題になるのでしょうか?

それは、受障に伴うネガティブな感情にフタをしてしまい、結果的に障害受容から遠ざかってしまうからです。

人生の途中で障害を負うことは、今までの「当たり前」が崩れるくらい衝撃的な出来事です。その衝撃が大きいが故に、障害を負うことによって様々なネガティブ感情が生まれます。

たとえば、「なんで自分がこんな目に遭うんだ(怒り)」「事故前は自由に動くことができたのに(悲しみ)」「障害のある自分に価値はない(自己嫌悪)」などの感情です。

私の場合は、車椅子での生活をイメージすることができず、今後どのような生活になるんだろうと大きな不安を抱えていました。

ここで重要なのは、このようなネガティブ感情は出てきて当たり前ということです。それくらい障害を負うというのは辛い体験です。

しかし、障害受容をしなければならないと考えてしまうと、このようなネガティブ感情を出してはいけないと捉える人もいるかもしれません(かつての私がそうでした)。

ネガティブな感情は、障害受容の大切な要素

心理学の研究によると、感情を抑制することは心身両面において悪影響があることが分かっています。感情を無理に押し殺した結果、さらにネガティブな感情が大きくなってしまい、最悪の場合、自殺につながる可能性もあります。

また障害受容の研究において、このような感情を素直に認め、我慢せずに表出することが、次のステップに進むための重要なプロセスであると考えられています。

つまりネガティブな感情は、障害受容をするためにはむしろ大切な要素です。まずは自分の感情に気づき認めることが障害受容のスタートです。

私の場合は「歩けないことは辛いし、簡単に受容できるものではないな」と考えることで気持ちが軽くなり、次のステップへ進めました。

もちろん、これらの感情を認めることで、さらに落ち込むなど新たな問題が出る可能性は否定できません。そのため、自分の感情と向き合う際には公認心理師、臨床心理士のようなカウンセリングの専門家の力を借りることをおすすめします。

車椅子に座り、公園のベンチの横で笑顔を見せる男性。

まとめ

障害は無理して受容するものではないということ。そして受障後にネガティブな感情が出ることは普通であり、むしろ正しく障害受容する上では重要なプロセスであるということ。

これらを理解した上で、小さな成功体験を積み重ね、その結果、自身の障害に対する認識が少しずつ変わることが障害受容の本質です。

ではスタートラインに立った上で、次はどのようなことをすれば良いか、次回はこの疑問に対して具体案を示して解説します。

アピールしたい職歴・スキルだけで応募できる!
ABOUT ME
中村 珍晴(ちん)
1988年生まれ。大学1年生のときにアメリカンフットボールの試合中の事故で首を骨折し車椅子生活となる。その後、アメフトのコーチを6年間経験し、現在は、大学教員としてスポーツ心理学の研究とアスリートのメンタルトレーニングを実践しつつ、YouTubeチャンネル「suisui-Project」で車椅子ユーザーのライフスタイルを発信している。