第6回:家族へのカミングアウト
前回は、仲良い友だち、そして、職場へのカミングアウト体験談をお伝えしました。
私のカミングアウト体験談最終章は、「家族」へのカミングアウトです。
カミングアウトを伝えていく中でも、一番の最難関と感じる人も多い相手が家族なのですが、私がいかに家族に伝えていったか、その一部始終をお伝え致します。
家族へなぜ伝えようと思ったか
LGBTs当事者の中には、仲良い友達や、職場の数人に伝えても、家族に伝えることはしたくない、と考える人も多いです。
逆に、家族には伝えやすかったとか、伝えようと思っていなかったけど、ばれた(または察していた)というパターンもあります。
私の場合は、家族が気付いてる様子はなく、世間のよくある話で、「まだ結婚しないのか」とたまに言ってくる父と、「あなたの結婚式は、ハンカチが何枚あっても足りない」という親バカ的な発言をする母と同居をしてました。
30歳を過ぎても、実家にいる息子に対して、特に家を出て行け、とは言われないものの、将来の身を案じてる様子はありました。
ただ、私はオープンリーゲイとして、当事者の声を代弁していくような立場になりたい、と思っていたので、誰からともなく回ってくるよりは、自分の口で伝えた方がいいだろう。という想いから、カミングアウトをする決意をしました。
とはいえ、30数年間、伝えようとも思わなかったし、どちらかといえば、ばれたくない。と思っていた考えから一転、ありのままの自分を伝えるのに躊躇をしました。
どうやって伝えよう。いつ伝えよう。伝えたら、嫌われないかな。何か言われちゃうかな。
そんな不安を抱え、腰がどんどん重くなっていき、いつからか伝えようと思っていた気持ちにも蓋をするようになっていきました。
家族に伝えるきっかけとその手段
そんな時、所属していたNPO法人バブリングの活動内容が、NHKの『バリバラ』という番組に取り上げられることになりました。
テーマとしては、”カミングアウトバー”というコンセプトの元、当時新宿にあるゴールデン街にて、バブリングバーという毎週日曜の間借りバーをやっていたので(現在は中野坂上に移転)そのバーの様子をドキュメンタリー形式で取材していただくというものでした。
バーカウンターの中で、「自分はゲイとカミングアウトして、周りの人が心を開いてくれて良かった」といった発言を、顔出しをして喋っている自分が思いっきり放送される予定でした。
全国放送のNHKにて、「自分はゲイ」と喋っている。放送を見た人から、周りに回って、両親の耳にその話が舞い込んだら大変。であれば、放送日よりも前に、自分の口から伝えよう。やっとタイミングが回ってきたという感じでした。
ただ、とはいえ、自分の口から「僕、ゲイなんだよね」という発言ができるイメージがどうしてもなく、自分の口で言えないなら、「動画で伝えよう」とテロップ付きのメッセージ動画を作りました。手紙ではなく、動画にしようと思っていたのは、その当時、初心者でも作れる簡単動画講座のような習い事をしていたからです。
年に一度、両親、姉夫婦と甥っ子、兄とそして私が一同に返す食事会が毎年、年末恒例にあり、その食事会で伝えようと、テロップ動画のファイルを保存していたPCを持っていきました。
32年間家族に伝えられなかった事実を伝えて
レストランの個室で2時間ばかりの食事を終えて、帰りの身支度をしようとしてた時、
「ちょっとみんなに見てもらいたいものがある」
とPCを取り出して、家族の前で上映タイムとなりました。
何度もテロップ動画の編集を確かめて、この言葉でいいか?どういう風に伝えようか?そんな風に試行錯誤したテロップ動画を再生しました。
動画の趣旨としては、「今まで育ててくれてありがとう」「僕にはたくさんの支えてくれる人たちがいる」「女性とは結婚は一生しない。けど、僕は幸せです」といった内容のものでした。今思うと、「女性と結婚しない」という、なんとも回りくどい表現をしていました。
約2分くらいの動画が終わったあと、すぐに趣旨を察してくれた姉夫婦は、
「しゅんがどんな考えでも、今までも変わらないよ」
と開口一番に言ってくれました。兄も驚いた様子は多少ありましたが、特にその後の態度に変化はありませんでした。
肝心の父と母です。
母は開口一番に、「いい曲ね。誰の曲なの?」と聞いてきました。実はテロップ動画にBGMをつけていて、テロップと合わせて、明治安田生命のCMにも使われた小田和正さんの『たしかなこと』という曲を流していたのです。
あとでわかったことなのですが、実は母は映像の趣旨をあまり理解していなかったみたいです。「開口一番それかい!」と思ったのですが、息子がゲイである、といった趣旨が全然伝わっておらず、僕の兄弟から、その趣旨を伝えられて、かなり動揺していたそうです。
父はというと、PC画面がノートパソコンだったため、円卓の奥から見ていたせいで、あまりテロップの文字が見えず、さらに内容がわかっていないようでした。
一世一代のカミングアウトは、なんとも無残な結果に終わってしまいました(笑)
両親のその後の反応
私が前回もお伝えしたFacebookでの投稿にて、NHKの番組に出演することも告知していました。
義兄とFacebookでつながっていたため、その投稿を見た義兄から姉に、そして母、最後に父と伝聞され、「内容はわからないが、息子がNHKに出る」ということで、両親と私は、その放送をリビングで一緒に見ることになったのです。
今度ははっきりゲイだと自分のことを伝えている息子を見て、番組を見終わった父の第一声は、「このバーはどれくらいの頻度で営業しているのか」という質問でした。
最初の質問それ?と思ったのですが、今思うと、否定も肯定もせず、ただただ受け止めてくれた父には感謝の気持ちしかありません。
どちらかというと、NHKのニュースや特集番組を好んで見る父は、昭和の堅物人間というより、柔和なマインドや知見を持っている人でした。
どちらかといえば、母の方が、拒否反応を示していた気がします。
食事会にて、カミングアウトをした夜も、「まだ決めなくても、40歳くらいになって、若い娘と結婚することだってあるじゃない」と言ったり、「男同士っていうのは、、、うーん、、、私にはなんだかわからない」とぼやいたり、どちらかといえば、親バカ的な母に肯定されて、父に何か言われると予想していたので、逆の反応を示されたのは意外でした。
しかし、私自身32年間伝えられなかったことを、”家族”だからといって、伝えた瞬間「はい、そうですか」と肯定的な態度になると思うことがおこがましいなと思っています。
こちらが伝えるのに、ものすごく時間がかかってしまったので、伝えられた側にも時間が必要なのだと思います。いわばキャッチボールでいえば、カミングアウトは相手へボールを投げることだと言われています。ボールを受け取った相手が、そのボールをどう消化していくか、そこには個人個人の違いができて当然なのです。
親も人間。さまざまな思惑
結局母は、Facebookの私のカミングアウト投稿に、さまざまな温かいコメントが100件近くあったので(ありがたいことに否定するコメントが1件もなかった)、そのコメントを姉夫婦から見せてもらって、安心したようです。
「あなたが伝えたことで、多くの人たちが感動している。それは素晴らしいことだし、応援する」と言ってくれました。ただ、その後も完全に肯定的な態度ではなく、やはり「男同士の恋愛」というところには不可解な気持ちを感じることはあるようです。
同世代のお友だちと、オネエタレントと言われるような、勢いがあって面白い話をする方が働いているゲイバーに行ってもまったく抵抗感がない様子の母の話を聞いたこともありましたが、「まさか自分の息子がゲイ当事者だったとは」というのは、どうやらそれとこれとは話が違う。といった感覚のようでした。
でも、親もいち人間。さまざまな考えがあって当然だと思いますし、気持ちがや考えが揺れ動くのも当然だと思います。
親自身、「この子は周りの人と違う感じになってしまって、大丈夫なのだろうか。不幸になったりしないのだろうか」
そんな心配から、否定的な態度をとることだってあるし、困惑してるからこそ、怒ったり、悲しんだり、受け止めるのに時間がかかってしまうことがあるのだと思います。
「幸せになってほしい」と願うからこそ、さまざまな反応があるのだと、今は思うことができます。
でも実際の真っ只中では、そこまでの余裕が当人同士ないかもしれません。
ありのままの自分を受け止めてほしい。好きでい続けてほしい。子どもとして愛してほしい。そう願うのは当然のことだと思います。
だからその想いに反する反応をされた時に、悲しいとか、伝えなきゃ良かったと思うのも仕方がないことだと思います。
逆の立場でいえば、LGBTs当事者であった子どもの決意を目の当たりにして、それは何か自分の育て方が間違っていたのだろうかとか、その生き方を容認していいのだろうかとか、子を思っているからこその気持ちが出てきてしまうのも、ごく自然な気持ちなのだと思います。「よく知らない、わからないから不安」という気持ちもあると思います。
でも、だからこそ伝えたい。
LGBTs当事者になることは、決して不幸なことではない。あなたの育て方が悪いわけでもない。
だからこそ繋がられた人たちがいるし、そういったありのままの自分であることが好きだ。時間がかかってもいい。当事者のことを知っていって欲しいし、不安にならなくて大丈夫。とっても、とっても幸せに生きてる人たちがいっぱいいるから。
人間だから、いろいろな思いが出てくるのも当然。でもどうか、受け止めてほしい。そのありのままの子どもをギュッと抱きしめて、あなたのことが大切であることは何1つ変わらないと伝えてほしい。
それが私からの願いです。
最後まで体験談を読んでいただき、ありがとうございました。