障害者雇用で知っておくべき基礎知識5選(2)障害者雇用促進法とは③ ~合理的配慮の提供について~
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2021.3.15
ここでは障害者雇用に初めて挑戦する人事担当者のために分かりやすく、(1)障害者基本法(2)障害者雇用促進法(3)障害者総合支援法(4)障害者差別解消法(5)障害者権利条約の5つに絞り障害者雇用に関連する知識を法律と実態を照らし合わせながら紹介していきたいと思います。
前回は(2)障害者雇用促進法にある障害者に対する差別の禁止について解説しました。
今回は、合理的配慮の提供について解説したいと思います。
執筆:中塚 翔大 Shota Nakatsuka
障害者雇用促進法は大きく分けて4つ
障害者雇用促進法は、障害者の均等な雇用機会の提供と待遇の確保含めた雇用の安定、能力を有効に発揮するための措置など職業生活において自立することを促進することを目的としています。
大きく以下4つのカテゴリーで構成されています。
- 職業生活における自立を図るための職業リハビリテーション
- 障害者の雇用を義務とする障害者雇用率制度
- 障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供
- 障害者雇用の経済的側面のアプローチである障害者雇用納付金制度
ここでは特に人事担当者が知っておくべき合理的配慮の提供について解説したいと思います。
合理的配慮指針とは
障害者雇用促進法では、企業側(事業主)は障害がある者とない者と均等な機会の確保と能力の有効な発揮に支障となっている事情において過重な負担のない範囲で改善をする必要があるとしています。
事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。
事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となつている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。
合理的配慮指針では、合理的配慮における基本的な考え方が示されています。
- 合理的配慮は、相互理解の中で提供されるべき性質のもの。
- 職場に支障となる事情が複数あるとき、話し合いの下で意向を十分に尊重し、より提供しやすい措置を講ずること。
- 雇用する労働者に障害があることを知り得なかった場合、合理的配慮の提供義務違反に該当しない。
- 障害のある者が希望する合理的配慮が過重な負担であるとき、話し合いの下で過重な負担にならない範囲において合理的配慮に係る措置を講ずること。
- 職場で働く者が障害特性の正しい知識の取得や理解に努めること。
合理的配慮の手続き
障害者雇用において雇用する側・される側のトラブルとして合理的配慮における認識の相違があります。
個別に障害種別・度合い、特性はさまざまであり、過去の事例や参考書などから得た知識・経験では補えない部分も多く、双方の話し合いを重ねる中で互いに過度な負担にならない範囲での合理的配慮に係る措置を講ずることが大切です。
そのため、一方通行の過度な要望とならないためにも適切な手続き(手順)が定められています。
- 障害のある者からの合理的配慮の申し出
- 合理的配慮の内容について双方で話し合い
- 合理的配慮の確定
募集および採用から採用後においてもキーワードは、常に「話し合い」です。
誰もが働きやすい職場環境を実現していくためにも合理的配慮に係る措置の実現可能性に限らず、障害のある者の意見に耳を傾け、前向きな話し合いをなしに一方的な通知による拒否は絶対に避けるべきでしょう。
合理的配慮の事例
それでは、障害種別に応じた具体的な合理的配慮の事例を少しだけ見ていきましょう。
- 視覚障害のある者に募集内容の音声等での提供をすること
- 拡大文字、音声ソフト等の活用により業務遂行の整備をすること
- 聴覚・言語障害のある者に面接時に就労支援機関の職員等の同席を認めること
- 肢体不自由のある者に体温調整しやすい服装の着用を認めること
- 精神障害のある者に作業手順マニュアルの作成等の対応をすること
- 発達障害のある者に感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用等の対応をすること
▶合理的配慮の別表はこちら
このように障害種別や度合い、特性により求められる合理的配慮の内容はさまざまです。合理的配慮の有無にかかわらず、業務指導や気軽に相談ができる担当者の配置など支援体制づくりは必要不可欠といえるでしょう。
過重な負担
合理的配慮の提供においては何をどこまで対応すべきかの明確な判断基準がなく、双方の認識のズレによるボタンの掛け違いがトラブルを招くケースが多くあります。
合理的配慮に係る措置が過重な負担に当たるか否かについては5つの視点から個別に判断することが求められています。
- 事業活動への影響の程度
- 実現困難度
- 費用・負担の程度
- 企業の規模
- 企業の財務状況
- 公的支援の有無
つまり、障害のある者の意向を十分に尊重したうえで、総合的に勘案し、企業の経済活動において無理のない範囲で対応するべきものであり、強制力や無理強いを求めるものではありません。また、総合的に勘案した結果、合理的配慮の提供ができない場合については障害のある者に対して適切な判断理由を説明することが求めれています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
合理的配慮の提供は、労働者の能力を引き出す重要な措置といえるでしょう。
しかしながら、明確な判断基準がなく、個別の障害特性と企業の設備や財務状況を鑑みて話し合う必要があり、双方の認識のズレが起きやすい要素を含んでいるといえます。
雇用する側は、まずは障害のある者が困ったときに気軽に相談できる体制作りとその周知、そして、相談したことを理由として不利益な取り扱いを禁止することなど社内に明示することが初めの一歩になるでしょう。
合理的配慮に係る措置がお互いの「働きやすさ」に繋がることをしっかりと意識していきたいものです。
Text by
Shota Nakatsuka
中塚 翔大
1985年生まれ。多様性を推進するプロジェクト『パラちゃんねる』の管理人。人材派遣・人材紹介など就職・転職支援に精通し、延べ1万人以上のキャリア支援の経験を持つ。耳で聞くラジオ、目で読むコラム、自由な出会いの求人サイトを運営し、障害のある方々含め多様性の浸透に向け活動を続けている。