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精神科病棟はロボットの修理工場ではない

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2024.5.10

今回は入院の話になります。私は今までに2度、精神科病院の閉鎖病棟に入院したことがあります。どちらも1カ月程度の期間でした。

周囲の人たちは入院した私に「三食昼寝付きのお気楽なホテル暮らし」「仕事もないし楽しく過ごせるね」などと言いました。

果たして、精神科病棟の入院生活は、本当に快適なのでしょうか?

執筆:糸ちゃん

どうも、紙巻きたばこから何度も禁煙に失敗し、プルームXというJTの電子タバコに落ち着いたKing of 中途半端(英訳が分からん)な糸ちゃんです。

さて、今回は入院の話になります。私は今までに2度、精神科病院の閉鎖病棟に入院したことがあります。どちらも1カ月程度の期間でした。2度目の入院の時、お見舞いに来てくれた親からこんなことを言われました。

「毎日仕事がなくて、メシの心配も要らないなんて気楽そうでいいよなぁ。俺も入院したいよ!」

他にも、面談に来た当時の担当PSWは「最低半年は入院して良くなってもらいますからね」と真顔で言いました。また、ある親戚は入院している家族について訊かれると「今ホテルに入っているんだよね」と言っていました。

この方々が表現するように、精神科病院への入院は本当に三食昼寝付きのお気楽なホテル暮らしで、先のPSWの言を借りると「最低半年」も楽しく過ごせるほど快適なのでしょうか?

私の場合は全く違いました。以下、理由を書きます。


ー 1. 常に嫌な臭いがする

これは2度目の入院の時で、その病棟が認知症や高齢者の多い場所だったためかもしれませんが、いつも排泄物の臭いが漂っていました。たまに病棟から出て戻ってくるとすぐにわかるほどです。もちろん、食事の時も鼻につきます。


ー 2. 気が滅入る光景

これも食事の時、いつも床に倒れて「助けてください、助けてください……」と泣きながら叫んでいるおばあさんがいました。それを見た他の男性患者が「あれをなんとかしろ!」と激昂します(確かになんとかしろよとは思いますが)。これが毎日毎食続くので、ただでさえ質素で味付けの薄い病院食が余計に美味しくなくなります。


ー 3. プライバシーがない

おしゃべり好きな同室の患者が、私が自分のベッドの周りにカーテンを引いて読書をしていても勝手に開けて入ってきます。「何してるの?」じゃねえ!〇すぞ!
あとは普通に物が盗まれます。私は面会時に差し入れでもらった、キャンディがたくさん入った大きめの瓶を丸ごと盗まれました。それを看護師に陳情すると。「多分あの人(入院患者)と思うけどこれで勘弁してね」と、盗まれたものとは無関係なよく分からんお菓子を数個渡されました。いやいや、これって犯罪行為を黙認してるってことやん。頭湧いてるのか? ここは海外ドラマに出てくる刑務所以下か?


ー 4. 作業療法が辛い

以前の職場で作業療法士と一緒に働いていたのであまり言いたくないのですが、正直なところなんの気晴らしにもならない、幼稚園のお遊戯みたいなことをさせられていました。具体的には簡単な間違い探し、つまらない大衆向け娯楽映画の鑑賞、異常な頻度で開催されるカラオケ大会(オッサンの松山千春を延々と聞かされる地獄)、遂にはただの散歩……etc。

これは病棟で一番できない人に合わせて一斉にプログラムを行うので、仕方のないことだとは思います。また、作業療法士がすごく熱心に患者のことを考えてお仕事をされているのを知っているので余計に辛かったです。

ここまで入院生活の嫌な面ばかり書きましたが、1度目の入院はそこまででもありませんでした。私が病棟で唯一の10代ということもあって周りの大人たちに優しくしてもらいましたし、気の合う主治医とは漫画や文学の話などをしてけっこう楽しいこともありましたから。それでも入院のストレスは相当なもので、外泊中は自傷行為を繰り返し今でも消えない傷跡が身体中にあります。

それと、精神科の入院には向き不向きがあると思います。実際、私が出会った患者の中には「ここが大好きで一生出たくない」「年中冷暖房が効いているユートピアだ」と言っている人たちもいました(後者は皮肉かもしれませんが)。

それでも、家族や支援者(PSW)をはじめ、精神科にぶちこむことが精神障害者に対する最上で最良の治療だと思っている人たちに、私はこの記事を通じて警鐘を鳴らしたいです。このことについて忘れられないのは、1度目の入院生活を終え退院した時祖母からかけられた言葉で、「退院したんだからもう全部治ったんでしょ?」というものでした。これを聴いて私は「俺はメンテナンスに出されたロボットかよ!?」と感じました。

また、親からは悲しいことに自殺してしまった私と年の近い知り合いの男性について、「〇〇クンもお前みたいに入院させりゃよかったのにね」とも。ここでも入院=ロボットのメンテナンスという感覚が見え隠れしています。精神科と無縁な健常者はこういう的外れな意識がかなり強いです。

「精神疾患なんてよくわからないもの、素人が下手に扱うよりその道のプロに任せた方がいいだろう」

この考え自体はそれなりに合理的な判断かもしれません。しかし、医者・看護師・PSWなどの専門家に本人の辛さを丸投げしてしまえば、周囲の人間としては非常に楽だという側面もあります。本人と向き合う必要もなく気持ちを理解する努力をしなくても、お金を出して精神科に放り込めば勝手に「治る」わけですから。

現に、数年前私が自殺未遂をした時、入院した方がいいのか迷っている時に親から言われた言葉がこれです。

「(入院するのは)当たり前だろ。まともじゃないんだから」

その際も私が自殺未遂をした理由は一言も訊かれることはなく、なぜか仕事に行くのが嫌だからやったのだと勝手に決めつけられました。

今回、私がこんな恨みがましい怨念に満ちた文章を綴ったのは、配慮の欠片もない言葉をくれた登場人物たちに謝ってほしいからでもないし、可哀そうな自分をアピールしたいからでもありません。ただ、これを読んでいる方の家族や周囲に心を病んだ人がいたとして、またこれから現れるとして、その時に入院という選択肢を安易に提示しないでほしいのです。

本人と関わる最低限の努力を放棄して、精神科への入院をある種の「万能の道具」として振りかざされると、私たちはすごく傷つきます。当事者にとって、自分が故障したロボットのように見られていると思うことは、精神科とは無縁な人たちの想像以上の孤独と絶望を生むからです。

だから私は、精神科病棟はロボットの修理工場ではないと思うのでした。ほなまた~。

1994年生まれ。いじめや家庭内不和で精神障害(双極性障害Ⅱ型)を発症しながらも、福祉系の大学で4年間福祉について学び精神保健福祉士を取得。現在は大分県別府市にある訪問介護事業所で事務・広報の仕事をしている。
ライターとしての心がけは「しんどいことを楽しく伝える」こと。自身の体験を専門職と当事者両方の視点で語っていきたい。

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