指や耳を使い、楽な姿勢で本を読みふける。それは私にとって至福のひと時です。
これまでさまざまな本、特に小説を読み、足を踏み入れたことのなかった世界を旅し、いくつもの発見をしてきました。
その発見は今、人付き合いの重要なヒントになっています。
そこでこの記事では、生まれつき全盲の私の読書体験について綴ります。
お腹の上で読めちゃう
仰向けに寝転び、お腹の上に点字の本を広げ、指を滑らせていく。子どもの頃、私はそうやって読書することに夢中になりました。
楽な姿勢で読めていいね、と家族に羨ましがられたことをよく覚えています。もしかしたらこれは、点字使用者あるあるかもしれません。
面白い本に出会ったときは、夜眠るのも忘れて没頭することになるわけですが、このスタイルだとほとんど疲れないんです。多少指がしびれるかなというくらい。点字使用者でよかったなと思うのはこういうときでした。
電子手帳でさらに楽に
子ども時代、私の手に取る点字本といえば紙の本でした。でもこれ、厄介な存在だったんですよね。学校の図書室で借りるのですが、とにかくかさばる。重たくて、持ち運びが大変だったんです。
その悩みから解放されたのは大学生のときでした。点字の電子手帳を活用し始めたんです。小さな機械なのですが、これがあればたくさんの本を電子データの形で持ち運べる。おかげで読書はさらに楽になり、はかどりました。
また私が本を楽しむ方法として、録音図書などを耳で読むというものもありますが、これもずいぶん楽。一番疲れない読書の仕方かなと思います。
最近は視覚障害者に限らず、耳で本を読む方が増えていますね。読みながらほかの作業ができるから、時間の節約になるんです。
私は時間を節約するつもりではないのですが、このところ点字図書よりも録音図書をよく手に取っています。やっぱり疲れないというのは魅力です。
小説の中では何でも見える
さて、私はこれまでさまざまなジャンルの本を読んできましたが、特に好きなのは小説です。「この登場人物はきっとこんな声で、こういう話し方をするんだろうな」などと想像しながら、ドキドキしたり共感したり怒りを覚えたりしながら、物語の世界を旅するのが楽しいんですよね。
ちなみに自分なりのイメージをより膨らませたいときは、音声よりも点字で読むほうが効果的かなと私は感じています。
生まれつき全盲の私にとって、小説というのは「特別な場所」です。どんなものも、はっきりと「見えてくる」から。目の前にいる人の顔の特徴、身に着けているもの、よく見せるしぐさ。そういうことが、小説の中では私にもちゃんと見えるんです。
今日の空はどんなふうに青いのか、なんてこともわかります。言葉を駆使して臨場感たっぷりに描かれているから、心でしっかりとキャッチできます。
想像するための手掛かりが増えた
小説を読んでいると、自分には知らないことがたくさんあったんだなと気づかされます。人はこういうときこんな表情をすることがあるんだ。人は相手のこういうところをよく見ているんだ。こういうときはこういう行動を取らないと失礼に当たるんだ。そんな発見をよくするんです。
私の知らないところで、人は結構目と目で会話している。非言語的なコミュニケーションは大きな意味を持っている。これも、小説を通じて学んだことです。幼い頃は、「この人はどうして言葉を交わさなくても相手の伝えたいことがわかるんだろう」と不思議で仕方なかったんです。
これらの発見がなかったら、私は人とつながることを過度に恐れて生きていたかもしれません。小説の中で多くの出会いを経験して、人の気持ちを想像するための手掛かりを増やすことができて、本当によかったと思っています。
本の内容を点字や音声に変換する。その簡単ではない作業に関わってくださる方々には、日々感謝しています。この場を借りてお礼の気持ちをお伝えします。ありがとうございます!
本を読めば、実際に足を延ばさなくてもどこにだって行ける。さまざまな生き方や考え方に触れられる。皆さんももっと、読書、してみませんか?