心疾患で無脾症候群の私が体験した虫歯治療のもどかしさ
総合病院でしか治療ができずに不自由だった
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2023.3.15
一生の中で誰もが経験するであろう、「虫歯治療」。キーンという甲高い機械音が響く、あの空間は憂鬱になるものだが、幼少期の私はその憂鬱を経験することすら難しかった。虫歯を治したいのに治療を断られるという不条理な悩みに、親子で頭を抱えたことがあったのだ。
執筆:古川 諭香 Yuka Furukawa
「持病があるから…」と断られて気軽に歯医者へ行けなかった幼少期
私は歯科治療の際、感染性心内膜炎を予防するため、治療の1時間前にカプセルの抗生剤を8錠、治療後に4錠飲まなければならない。
しかし、抗生剤を服用しても、地元にある個人開業の歯医者では「心臓病があるから、どうにかなった時に責任が取れないので、うちで診ることは難しい」と言われ、迅速な虫歯治療を受けることができなかった。
個人開業の歯医者は、私が心疾患を診てもらっている総合病院への紹介状を書いてくれた。しかし、かかりつけの総合病院は休日診療しておらず、当時は予約しても待ち時間が長かったため、通院しようとすると、学校を半日休まなければならなかった。
心疾患の定期健診に歯科治療も加わると、学校に行けなくなる日が増える。授業についていけなくなるのが怖かったし、途中から登校してクラスの中で目立つのが嫌だった。
また、当時、私が通っていた総合病院の歯医者は患者数が多かったからか対応がとても雑で一度、麻酔が効いていないまま神経を抜かれたことがある。そのため、通院する恐怖が増し、治療中に同僚の悪口を言う医師や看護師の声も聴きたくなかったので、自然と歯科治療から足が遠のいた。
通院に付き添ってくれていた母にとっても、私の歯科治療はストレスになっていたようだ。「この子は持病があるんだから、親御さんがもっと気を付けて虫歯にならないようにしないと」と、個人開業している歯医者や総合病院へかかるたび、母は医師からそう責められたからだ。
大人になってから言われたのだが、私は持病があるため、虫歯菌が発生しやすいらしい。そういう医学的情報が当時は広まっていなかったのかもしれないが、歯医者に行くたび、責められていた母の心境を思うと、今でも心が重くなる。
大人になって初めて“気軽に歯医者へ通える嬉しさ”を実感
幼少期の経験から、自分を診てくれる歯医者はかかりつけの総合病院しかないのだと諦めていた私はなるべく虫歯にならないように気を付けていた。
だが、自力でできる予防には限界がある。ついに憂鬱な虫歯ができてしまい、20代後半、久しぶりに歯医者へ通うことにした。総合病院の歯医者にはいいイメージがなかったため、自分を受け入れてくれる歯医者は本当にどこにもないのか探すため、ダメもとで個人開業の歯医者へ行くことにした。
その時、一部の歯医者では、やはり「持病があるから怖くて触れない」と言われたが、中には幼少期の頃とは違い、持病があることを伝えても「大丈夫ですよ」と言って、診てくれる歯医者も数軒あった。これまでとは違い、自分の予定にあわせ、休日でも歯医者に行けることが、とても嬉しかった。
ただ、虫歯治療を受け入れてくれた歯医者でも、抜歯となると「かかりつけの総合病院へ行ってください」と紹介状を書かれることが多かった。それは持病を持っているから仕方ないことだ。そう諦めていたが、色々な歯医者へ行く中で、ようやく抜歯も行ってくれる歯医者に巡りあうことができた。
幼少期にもこんな風に、障害があっても通いやすい歯医者があれば私の口腔内にある銀歯は、もっと少なかったのかもしれない。
無脾症候群である私のように免疫力が低いと、虫歯を早期発見、早期治療をすることも大切なセルフケアになってくる。だからこそ、持病があっても気軽に通える歯医者が増えてほしいし、我が子の健康を思い、歯医者に連れてくる親の心を高圧的な指導で踏みつぶさない歯科医も多くなってほしい。