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カウンセリングを4ヶ月受けて変わった「日常の行動」

~外出先で自販機が使えるように…

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2024.4.12

複雑性PTSDは、持続的な虐待やDVなどのトラウマ体験をきっかけとして発症する。私の場合は、日常的に暴言を吐く父親と過干渉な母親から受けた傷が原因だ。刻み込まれた心の傷は、カウンセリングで癒すことができるのか。最初は、そう疑問に思ったが、カウンセリングを受ける中で、少しずつ思考や行動が変わってきた。

執筆:古川 諭香 Yuka Furukawa

自分で自分の首を絞めていたカウンセリング前

メンタルクリニックで複雑性PTSDと告げられた時は、正直ショックだった。持病の心疾患だけでなく、完治するか分からない心の病気も知らないうちに抱えていたことが悲しかった。

だが、「年単位で治療していきましょう」という公認心理師の言葉を受け、1週間から2週間に1回ほどカウンセリングに通っているうちに少しずつ思考や日常の行動が変わってきた。


ー カウンセリング前の日常

  • 外出先で喉が渇いても、人の目が気になって自販機で飲み物が買えない。「お金がもったいない」や「少しくらい我慢しろ」という自分の声に負ける
  • 初めて行く店は敷居が高く感じられて、ひとりでは入れない。私は浮くし、その場にそぐわない人間だと感じる
  • 休んではいけないという気持ちがあり、仕事の合間に休憩できない。夕食だけの1日1食生活
  • 実家に行かないと…という気持ちになり、仕事終わりに時間が空くと実家へ行き、ただボーっと親の隣で過ごす
  • 店員と話すのが怖い。必要以上に緊張して言葉が出てこない
  • 夜に眠れないと焦りや不安が募って車道に飛び出したいと思いながら、廊下の壁にもたれかかって、行き場のない空虚感と闘う
  • 怒りモードや虚無モードのスイッチが入ると心の舵を取れなくなって苦しい
  • スイーツなどのプチ贅沢を買うのは自分のためではなく、相手のため。両親にも買っていかないと気が済まない
  • 何かをしていて時間がうっかり過ぎるということがほぼない。いつも時間を気にして行動している

カウンセリング前、私は心底自分が嫌いで自信の欠片もなかった。外出先はもちろん、自宅にいても誰かに行動を監視されているような気がして、リラックスできたことがなかった。頭と心には常に焦燥感があり、ひとつひとつの動作を焦って一生懸命こなしていた。したいのにできない行動が多く、それが生きづらさに繋がってもいた。

悪いのは私ではなく、子どもを守ってくれなかった親だった

カウンセリングに行くたび、カウンセラーはいつも「あなたは悪くない」という言葉を一貫して伝えてくれた。正直、最初はその言葉を聞いても首をかしげていた。親を非難できてはいたけれど、複雑性PTSDになった原因は自分の至らなさにあると思っていた。

自分が役立たずだったから、愛されなかった。持病があったからお荷物だった。もっと親の役に立って、健康だったら愛が貰えていたのかもしれない。そう思っては、小さな頃の自分を責めるばかりだった。

けれど、カウンセリングの回数を重ねるうちに、私は悪くなかったのではないかと思えるようになってきた。小さな子どもにできることなど、限られている。あの頃の私は、できないことだらけで当然だったのだと思った。

子どもは本来なら、親に守られる存在だ。それなのに、愚痴を聞かせたり、駒のように扱って自分が思う暮らし方を強要したりした大人のほうがおかしかったのではないかと、ようやく客観的に自分が置かれていた家庭の異常さに気づいた感覚があった。

そして、自分の根っこに「努力をしないと愛してもらえない」という気持ちがあったことに気づいた時、ああ、なんて小さな私は悲しかったんだろうと泣けて仕方なかった。友達とのおしゃべりやテストの結果に思考がいく時期、私の頭にいつもあったのは家族のことだった。

我が家は、きっと普通じゃない。そう気づいてはいたけれど、普通だと言い聞かせて頑張れば、普通になる気がした。乗り越えられる気もした。だから、あの頃の私は頑張ってきたし、今も誰かに愛されるために泣きながら笑って、努力している。そう知った時、もう、そんな苦しいことはしなくてもいいよ、と伝えたくなった。

そうした自分の傷に気づいてから、私の日常は少し変わり始めた。喉が乾いたら自販機で飲み物を買う。たったそれだけの行動ができるようになったことが、たまらなく嬉しかった。

他にも、変わった行動はいくつかある。
・出先で「これを親にも買っていかないと」といい子アピールをしたくなることがなくなった
・仕事が早く終わった日、意味もなく実家に行かなくなった
・自分が食べたいからという理由でご褒美スイーツを買えるようになった
・自宅で人の気配が気になる時はイヤホンをして自分を守れるようになった
・仕事中に昼休憩を取れるようになった
・時間に追われすぎず、夕食を作れるようになった
・イライラモードや虚無モードが入らなくなった

過去の自分に少し優しくなれたら、今の自分の扱い方も変わった。スキンケアをする時や髪をとかす時など、ひとつひとつのなにげない行動に力が入っていたことに気づき、驚いた。2時間メイクをしないと外出やオンライン取材もできなかった生活も少しずつ変わり、メインの予定の前に疲れ切ることが減った。

そして、一番びっくりしたのは景色の見え方が違うということ。不思議なことに、見慣れた自宅前の風景なのに、ものすごくキラキラして綺麗に見えた。草ってこんなにも青々していたのか。太陽の光はこんなにも明るかったのか。本当にそう思えて、泣けた。私の世界が少し色づいてきた。

まだ休むことは苦手で、「休みたい」ではなく「休まなきゃ」という義務感だ。でも、こういう感じ方も私が頑張って生きてきた証だ。世界は自分が思っていたよりも、綺麗なものなのかもしれない。柄にもなく、そんなことを思う自分は案外嫌いじゃない。

猫の下僕のフリーライター。愛玩動物飼養管理士などの資格を活かしながら大手出版社が運営するウェブメディアにて猫に関する記事を執筆。共著作は『バズにゃん』。書籍レビューや生きづらさに関する記事も執筆しており、自身も生きづらさを感じてきたからこそ、知人と「合同会社Break Room」を設立。生きづらさを抱える人の支援を行っている。

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