どんな時に髪を抜きたくなるの？～抜毛の衝動に抗えない当事者の本音～
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2023.9.29
「抜毛」という行為は、心のガス抜きのようなものだと私は思う。もちろん、人によって髪を抜きたいと感じる瞬間は様々だが、今回は私が抜毛せざるを得ない時の心理を紹介。抜毛中の心境を知ってほしい。
執筆：古川 諭香 Yuka Furukawa
1番抜毛しやすいのは不安なことがある時やストレスを感じた時
私の場合は嬉しい時や楽しい時には、抜毛したいという気持ちが一切こみあげてこない。死にたい、消えたい、現状から逃げ出したいと思うほど、強いストレスがかかった時にだけ髪を抜きたくなる。
例えば、先日は想定していたスケジュール感で仕事が進まなかった時に、強いストレスを感じ、無性に髪を抜きたくなった。抜毛したくなる時間帯は大抵、夜中。悩みごとで頭がいっぱいなまま深夜2～3時を迎えると、眠れない焦りも加わって気持ちがさらに滅入る。
そこで、寝室からリビングやトイレに移動して、ひとり静かに髪を抜く。髪を抜いている間も悩み事への対処法を考えているのだが、抜毛せずに考えている時よりも不思議と心は穏やか。冷静と混乱が混乱が半分ずつ入り混じった思考になる。
1～2時間ほど髪を抜き続けていると、より心が静まっていき、眠気がくるのでベッドに戻る。その日は抜毛によって気持ちが落ち着き、満たされるのだが、翌朝、リビングやトイレのゴミ箱に捨てられた、大量の髪の毛を見て自己嫌悪してしまうのだ。
トラウマ体験や嫌な記憶を思い出した時にも髪に手が伸びる
もうひとつ、私が抜毛しやすいのは、自分の中で思いだしたくないほど嫌な記憶や体験が、ふいに引っ張り出された時だ。
子どもの頃、父親の罵声を聞きながら育ったこともあって、私は大声で怒鳴る大人が苦手。街中でそういう人を見たり、実際に父親の怒鳴り声を聞いたりすると動悸がした後、髪に手が伸びる。おそらく無意識に、抜毛で心を落ち着けようとしているのだと思う。
こんな風に何かが引き金になって嫌な記憶が思い出されることもあれば、家事などをしているふとした瞬間に、なぜか辛かった過去が蘇ってきたり、イライラがこみ上げてくることもある。こうした突然のフラッシュバックは自分で制御することが難しいため、なんとか気持ちを楽にしようと抜毛という手段で心をなだめるのだ。
きっと、私にとって抜毛は心で抱えきれなかった感情を発散する行為になっているのだろう。10代の頃、精神科にかかった時、担当医が言っていた言葉が心に残っている。人の心には自分の感情や自身に起きた物事を受け止められるお椀みたいなものがあって、そこから溢れ出たものが心身症のような形をとって、体に現れるのだ、と。
抜毛症はまさに、そうした心身症のひとつなのではないかと私は思う。自分のキャパでは受け止め切れないことが起きると、「抜毛症」という症状が現れ、「髪を抜く」ことでお椀から溢れ出た気持ちを消しているように思えてならない。
私の場合は抜毛という行為を止めると、心のお椀から溢れた気持ちをどう処理すればいいのか分からなくなる。もともと人に相談をするのは苦手だし、社交的なタイプでもない。どちらかというと人と会うことすらストレスになってしまう人間だからこそ、行き場のない気持ちも自分の中で発散しようと頑張ってしまい、抜毛という問題行動が現れるのだろう。
優しい言葉をかけながら自分を労わる治療法だけでなく、キャパオーバーした苦しみや、自身が感じた強いストレスを吐き出せる相手を作ることも、抜毛症の改善には重要な気がする。
現在、私はフラッシュバックを起こす「複雑性PTSD」という病気の治療のため、公認心理師がいるカウンセリングに通っているのだが、そこで気持ちを吐露するようになってからは、かなり抜毛する頻度が減った。
私のように、身近な人にはどうしても苦しみを打ち明けられない人や頻繁にフラッシュバックが起きて苦しい思いをしている人は、プロの力を借りるのもおすすめだ。ぜひ、自分が楽になれる、心のお椀から溢れた感情の受け止め方を探してみてほしい。
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