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第6回「障がい者雇用のあるある座談会」~法改正!合理的配慮の義務化で変わること~

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2023.8.13

こんにちは!パラちゃんねる運営事務局です。
障がい者雇用担当者交流会「FLAT(ふらっと)」への情報提供として、障がい者雇用で働く当事者の困りごとを集める場として2023年6月11日(日)に第6回「障がい者雇用のあるある座談会」を開催しました。当日は、Twitterスペースに120名を超える方に参加いただきました。

執筆:パラちゃんねる運営事務局

はじめに

2022年1月にオープンした求人サイト「パラちゃんねる」では、これまで3000社を超える障がい者雇用担当者と対話を続けてきました。

  • 障がい者雇用のはじめ方がわからない
  • 業務の切り出し、受け入れ部署の開拓ができない
  • 相談する場所がない
  • 新卒採用と兼業で手が回らない
  • 社長・役員が障がい者雇用にネガティブである etc

障がい者雇用担当者は、役員と現場の狭間で理想と現実のギャップに日々悪戦苦闘しています。教育課程での構造的分断がある日本においては「働く」を通じた共生社会の実現が求められ、旗振り役となる障がい者雇用担当者の積極的な社内活動が必要不可欠です。

私たちは、障がい者雇用担当者を後押しするチームとして障がい者雇用担当者交流会「FLAT(ふらっと)」を形成し、職場での雇用促進に向けて全面的にサポートすることとしました。

今回は、障がい者雇用で働く当事者の困りごとを集める場として開催された第5回「障がい者雇用あるある座談会」の活動報告に続き、第6回「障がい者雇用あるある座談会」となります。

>中塚翔大(パラちゃんねる オーナー)
多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」を運営し、障がい者雇用を軸に誰もが特性を活かせる、多様な選択肢のある社会を目指し活動している。

>山田小百合(NPO法人Collable 代表理事)
障がいのある人達の社会参画と、障がいの有無を超えた学びと共創の場づくりを手掛け、インクルーシブデザインの普及や、障がいのある学生のキャリア学習支援事業を運営中。

>豆塚エリ(詩人・エッセイスト 兼 介護事業経営者)
16歳で飛び降り自殺を図り頚髄損傷(車いすユーザー)に。現在は「死にたい気持ちが消えるまで」の書籍を手掛け、詩人・エッセイストとして活動する傍ら介護事業の経営も行う。
当日はTwitterスペースに120名を超える方に集まっていただき、様々なコメントを頂きました。

民間事業者の合理的配慮の義務化とは

今回のテーマは「合理的配慮の義務化によって何が変わるのか」についてです。従来、合理的配慮という概念には個々の感覚に委ねられた曖昧さが含まれており、配慮と遠慮、わがままの境目がどこにあるのかなどしばしばトラブルの原因へと繋がっていました。


~合理的配慮の定義~
障がい者権利条約第2条に定義されている「合理的配慮」とは、「障がい者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」(第2条)。


障がい者が合理的配慮を求めた場合、負担が過重でないときは、必要かつ合理的な配慮をするように努める必要があります。ただし、民間事業においては分野・業種・場面・状況によってさまざまであり、求められる配慮の内容・程度も多種多様なため合理的配慮の提供についてはこれまでは努力義務とされていました。

令和3年の障害者差別解消法改正により令和6年4月1日より民間事業者による合理的配慮の提供が義務化されることで、障害者雇用の現場においてどのような変化があるのでしょうか?

>豆塚エリ
そもそも「配慮」というぼんやりと曖昧さを秘めた言葉に対して「合理的」という妥当性の高い明確な根拠を必要とするような言葉が付くので、どこからが妥当でどこからが我儘かというモヤモヤさが付き纏う言葉になってるなと感じます。

身体障がいで車いすの場合、通勤や移動に関するハード面への課題が多くなり、その点わかりやすさはあるのですが、例えば従来はエレベータがない、スロープがないために断られていた事象が今回の合理的配慮の義務化により変化するのだろうかという点は気になりますよね。


>山田小百合
飲食店含めて小さな店舗の対応は難しさが残りますよね。負担が過重でない範囲が曖昧なままだと、法改正により互いの認識の不一致の中で生まれるコミュニケーションはトラブルのもとになる可能性も否定できませんよね。


>中塚翔大
法律によって本音が隠れてしまうケースは結果的にサービス利用者側の負担や損に繋がることが多いので実態に基づいた正直な発信があった方が互いにストレスがないのではと感じてしまいます。例えば、人材業界でもそれぞれの採用枠には企業の思惑や本音が当然あるのですが、法律によって禁止されて表現できない情報があると求職者が無駄な就職活動に時間を費やすことに繋がり、損するだけなんですよね。

合理的配慮という言葉の起源

合理的配慮の文言が、1977年のリハビリテーション法の施行規則で障害者に対する差別を防止する意図で用いられたのが起源とされており、それ以降、障害を持つアメリカ人法でさらに明確に定義され、さらに障害者権利条約で採用されたことで、一般的に知られる概念となったと言われています。


>中塚翔大
勝手な印象として、「配慮」という言葉が抽象度が高くて日本人的な解釈だと感じているんだけど、海外だとどうなんだろう?


>山田小百合
障がい者権利条約では、「reasonable accommodationリーゾナブル・アコモデーション」と表記されていて、障がい者の完全な参加を可能にするための機会の調整(adjustments)や変更(modifications)と表現されてるんですよね。「accommodation」という単語にも調整という意味もあるのですが、「配慮」と翻訳したことで曖昧さがより強調されてしまった感はあるかもしれませんね。


>豆塚エリ
行政っぽい言葉だなと思っていて「上から目線でやってあげるよ」というニュアンスを受けるんですよね。障がい者手帳の裏面に「この手帳は更生しようとする障がいのある方をお世話するための手帳です」と書いてあってびっくりしたことがあったんですが、「お世話してあげます」という前提の上にある配慮という言葉はしんどさがあるなと思いますね。


>中塚翔大
確かに「調整をお願いしたい」というのと「合理的配慮をお願いしたい」というのでは捉え方は全く異なりますよね。言葉が無意識的に上下関係を作り出していますよね。


>豆塚エリ
そうなんです。確かに提供される、助けてもらうことではあるんですが、その一方で働きやすさを得ることは私たちもプラスを提供できるはずでWinWinな面も多分にあるはずなんですが、働かせてもらってる感がどこか潜んでいて嫌なんですよね。互いに働くためにできること、できないことを明確に話し合って整理したいはずなのに、一方通行で障がい者が訴えて企業側は聞かなきゃいけないみたいな感覚になるのが嫌ですね。


>中塚翔大
確かにそうですよね。私みたいに小さい会社だと合理的配慮を義務化として主張されてしまうと脅し的に感じてしまう場面もあるような気がします。理解はできても、現状の資金繰りやリソースを考えると現実的に対処しにくい場面があると思いますし、困ったなぁと頭を抱えてしまうかもしれません。

企業に合理的配慮の提供を求める時の準備

民間事業者へ合理的配慮の義務化にあたり、行政から提供される助成金が増えたりスムーズな導入を促進するような措置はあるのでしょうか?


>中塚翔大
それぞれの自治体により取り組み状況は異なりますが、既に助成金はありますね。ただ、手厚いかと言われるとまだバラツキがあるため、法改正を機に企業の支援についても議論が進むと良いなと思っています。


■合理的配慮を支援する助成金の一例
・点字メニュー、チラシの音訳などのコミュニケーションツールの作成
・筆談ボード・折りたたみ式スロープなどの物品の購入
・簡易スロープや手すり、多機能トイレなどの工事の施工
・障害特性や合理的配慮の提供方法への理解を深めるための研修 etc


>豆塚エリ
助成金が使いやすくなると働く側も伝えやすくなりますよね。〇〇助成金があるので通勤で利用できないかとか、支援機器を購入できないかとか。


>中塚翔大
合理的配慮のお願いする側も助成金の情報を知っていると提案の仕方も全然違ってきますよね。助成金の情報は知っている企業も少ないと思うので、交渉するときの武器になるような気がしました。

>豆塚エリ
合理的配慮の義務化によってお願いしやすくなりましたと言われても、ネガティブな印象を持たれたくないですし、整備する代わりに長く働けよと言われても保証はできないので、結果的に伝えやすくはならないと思うんですよね。訴えたり大ごとにしても最終的には働きづらさしかないですからね。お願いする側もいくつかのパターンがあると交渉や調整がしやすくなると思います。

障害者雇用を進めるための工夫と懸念点

■リスナーさんコメント
職場に職業コーディネーターさんがいて、仕事の得手不得手や仕事量の調整を上司との調整をしてくれます。そんな方がいろんな会社で増えたら働きやすくなるのではと感じています。

>中塚翔大
支援員が付いている企業も増えてきていますよね。ただ、個人的には懸念点もあって、支援員が付いていない人は採用しないという企業も増えていて、支援を受ける必要のない人の機会損失に繋がってしまっている場合もあるんですよね。支援員に丸投げ状態でもあり、企業側に障害者雇用のノウハウが溜まらないので頼るところと頼らないところのバランスが大事なのかなと思っています。


■リスナーさんコメント
企業側が病気や障害に対する勉強をするのは難しいため、採用や人事異動の前に面談が1時間でもあると雇用のギャップが生じにくいと感じます。


>中塚翔大
採用前含め定期面談を設定する企業は増えつつありますよね。ただ、働きやすさの解消と言うことでもなく、機械的に実施している企業もあるような気がするので、明確な目的とゴールがある中での面談が増えると良いですよね。


まとめ

第6回の障がい者雇用あるある座談会は「法改正!合理的配慮の義務化で変わること」について議論を交わしました。合理的配慮という言葉の曖昧さが生み出すすれ違いを焦点として本来のあるべき姿を検討すると共に働く側としてできる得る準備やポイントについても話がありました。

制度の内容や義務化という言葉に固執し過ぎた偏った一方通行の申し出はトラブルを生むきっかけにも繋がります。合理的配慮の提供を申し出る目的は何なのか、どんな状態を理想とするのかなどゴール設定を明確にしたうえでの企業との対話が重要になってくるような気がします。

なお、第1回からの障がい者雇用あるある座談会の様子はnoteにも纏めていますのでそちらもご確認ください。次回は、「好き嫌いと得手不得手~仕事の選び方~」です。2023年7月30日(日)に開催です。改めて活動報告いたします。

多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」は、2020年より「知る」を広げるラジオ・コラムのメディア活動に加え、「自由な出会い」を創出する障がい者雇用特化型の求人サイトを運営しています。

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