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これからの障害者雇用で目指すべきキャリアと職種

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2024.3.14

これまでのキャリアを振り返ると、社会人生活15年を超え、身体障害者にしては、法人営業、人事コンサル、商品開発、編集、ライター、セミナー講師、講演、メディア出演、新規事業開発、広報、サスティナビリティ推進と割と多くの職種を経験してきたほうだと思います。もし私が就活中の大学生だったとしたら、どのようなキャリアを選ぶのか、ちょっと考えてみました。

執筆:佐々木 一成 Kazunari Sasaki

これまでのキャリアを振り返ると、社会人生活15年を超え、身体障害者にしては、割と多くの職種を経験してきたほうだと思います。

新卒で入った会社は、採用や社員教育を支援する人材系のベンチャー企業でしたが、そこでは主に法人営業と人事コンサル、商品開発を行いました。その後、独立してからはWEBメディアの運営を通じて、編集・ライター業を経験、その折々でセミナー講師や講演、メディア出演といった人前で話す仕事もしました。企業とコラボした新規事業開発の経験もあります。

現在は、企業広報の仕事を中心に、企業のサスティナビリティ推進に関連した業務も担当し、管理職としてメンバーを抱えて組織運営しています。

飽き性だからたくさんの仕事を経験している、が適切な答えかもしれませんが、障害者雇用の職種としてよく求人票にあるような、事務職・データ入力作業・コールセンター・デザイナー・清掃業といった仕事に従事したことはなく、障害者のキャリアとしてはやや異端かもしれません。

先週、「障害者雇用で働く人たちにAIはどのような影響を与えそうか」という記事を寄稿しましたが、私自身がこれまで経験した職種もいくつか先細りしそうだなと思うものがあります。

例えば、営業職は、マーケティングツールが自動化してきた流れによって、私たちが考える負担は減りました。メールやチャットツールでのコミュニケーションがより一般化すれば、人を介さずに営業活動が進んでいくかもしれません。編集やライターのような物書きの仕事もAIの力を借りたほうが効率的ですし、私の原稿自体、生成AIとの対話で作っています。

単純作業や仕組み化された仕事で、パソコンなどのデバイスを使うものであれば、遅かれ早かれ、すべてではなくとも、人の手から代替されるでしょう。したがって、これからの障害者雇用でキャリアを積んでいくのであれば、AIなどのシステムを開発する側に回るか、パソコン等を普段使いしない仕事を選ぶかのどちらかが賢明だと思います。

私自身、これまでのキャリアでITエンジニアの経験はありませんが、今、就活中の大学生だったとしたら、間違いなくITエンジニアを目指します。キャリアを積んでいけば高収入が目指せるなどの経済的メリットもありますが、障害者(障害特性とその配慮)との親和性を考えると納得してしまうからです。

ITエンジニアの仕事は、主にコンピューターやプログラミング言語を使用してシステムを設計、開発、保守することが中心です。障害者の場合、身体的な制約があっても、コンピューターを操作する能力に支障がないことが多く、以前と比較しても、補助ツールを使うことで使い勝手は良くなっています(このあたりはパラちゃんねるカフェ内のいくつかの記事で紹介されているはずです)。

コロナ禍以降、働き方の多様化が進んでいますが、ITエンジニアの仕事の多くは、リモートワークやフレキシブルな勤務時間での働き方が実現しやすいです。障害者の場合、通勤をはじめ、障害特性に配慮した柔軟な働き方が求められることがありますが、そのニーズに対応しやすい環境が整っています。

業務上、メールやチャット、プログラミング言語などのテキストベースの業務連絡が多いので、言語や聴覚に関する障害がある場合でも、コミュニケーションを円滑に行うことができます。営業職や販売職のようなコミュニケーションの機微によって成果が左右されるリスクは低い傾向にあるので、精神・発達障害の方にとっても相性がいいかもしれません。

ITエンジニアとして一人前になるまでには、個人や環境によって異なりますが、一般的には数年から10数年単位で考える必要があります。

最初は、プログラミング言語やデータ構造、アルゴリズムなどの基礎的な知識を身につけるための学習期間が必要です。新卒や第2新卒などの若手であれば、未経験での就職も叶いやすいと思いますので、入社後研修という形でインプットが進むはずです。最近ではオンラインでのプログラミング学習ツールも増えているので、学ぶ機会はたくさんありそうです。

その後は、実際のプロジェクト・案件に参画して、経験を積みます。ITエンジニアとして就職すれば、自身のスキルや経験、意向によって参画機会が与えられるはずです。経験を積み重ねつつ、ウェブ開発、データベース管理、ネットワークセキュリティなど、興味や適性に応じて専門分野を選択し、自身の専門性を深めます。この辺りでようやく一人前です。

IT業界は急速に変化しているので、新しい技術やツールの登場に合わせ、常に情報を収集し、知識をアップデートしていかなくてはなりません。正社員で働くことも、フリーランスとして働くことも、キャリアとして描くことができます。

個人的には障害者はフリーランスのほうが向いているのではないかと思っているので、その点においても、ITエンジニアは相性がいいと感じています。

※通勤・オフィス環境・デバイスやツールの補助・コミュニケーション・人間関係など障害者が働く上での課題の種を考えると、自分で働く環境を整えられるフリーランスは選択肢として有益だと思っています。

5年後・10年後に生き残る仕事、なくなる仕事というような棲み分けが取り沙汰されることもありますが、シンプルに考えると、企画・開発というような仕組みや仕掛けを作る側に回れば、生き残る確率は高くなると思います。ライター職が使う生成AIでは、どのような動作をしてほしいかというプロンプトを入力しなければ、アクションを起こしてもらえませんし、仕事を動かす側になることで自身のキャリアが守られることは覚えておいてもいいかもしれません。

障害者雇用には福祉的な側面もありますが、雇う側の企業は給与をはじめとしたコストを支払って雇うわけであって、大なり小なり、勤める企業に対して、成果を還元しなくてはなりません。

障害の程度や種類、特性などによって、健常者と同じ水準やキャリア意識を求めることは難しいと思いますが、自分がやれる範囲でどこまで貢献できるか意識し続けること、そして企業から選ばれる存在であるために自身を検証し続けることは、障害の有無が関係ないテーマだと思います。

個人的にはITエンジニアをおすすめしてみましたが、社会で活躍”しまくる”障害者ビジネスパーソンが増えればいいなと考えています。その結果の積み重ねで現れてくる社会が、本当の意味での共生社会なのではないでしょうか。

1985年生まれ。生きづらさを焦点に当てたコラムサイト「プラスハンディキャップ」の編集長。
生まれつき両足と右手が不自由な義足ユーザー。年間数十校の学校講演、企業セミナーの登壇、障害者雇用コンサルティング、障害者のキャリア支援などを行う。東京2020パラリンピック、シッティングバレーボール日本代表。

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