長い間「私はADHDだからマルチタスクができない」と思っていました。マルチタスクとは、複数のことを同時並行で進めるスキルのことです。今回はADHDの私とマルチタスクについてです。
ADHDとマルチタスクの相性の悪さ
長い間「私はADHDだからマルチタスクができない」と思っていました。
マルチタスクとは、複数のことを同時並行で進めるスキルのことです。発達障害の人はこのマルチタスクが苦手な人が多いと言われています。
たしかに、これまでの自分を振り返ると、複数のことを同時並行で進めようとすると失敗する確率が高かったです。一度作業を中断するとどこまで終わらせたのかわからなくなって最初から全部やり直すことになったり、いまいち集中できずにミスしてしまったりしていました。
今回はADHDの私とマルチタスクについてです。
作業効率が上がらないマルチタスクの実態
マルチタスクと言っても、タスクの内容は場合によってちがうと思います。私が働いていた放課後等デイサービスという障害児向けの学童のような場所でよくあったのは「複数人の子どもの様子を見ながら、手では別の作業をする」など、手と目で別の仕事をすることでした。
「目と手、どちらかが空いているのはもったいない」とよく言われていました。たしかに、何かを見ながら手で別の仕事を滞りなくできれば、作業のスピードが2倍とまではいかなくても、1つのことを進めるよりも速くなりそうです。
ただ、私が複数のことを同時に進めようとするとそうはなりませんでした。もともと私は気が散りやすく、目の前の一つのことへの集中力を保つことすら難しいのです。手元に意識を集中していないと、自分がどこまでやったかわからなくてやり直しになったり、変なミスをしてしまったりして、結局余計に時間がかかることが多くなりました。
その上、どれだけ両方に気を配ったつもりでも、見る方もおろそかになってしまいます。手元に集中していたときに大きな物音がしてそちらを見てみると子どもが手や足をぶつけて痛がっていたり、子ども同士がもめて喧嘩になっていたりすることがよくありました。
何かをしながらだと怪我や喧嘩の気配を察知して未然に防ぐことができなくなってしまいます。何かが起きてしまった後も、肝心な場面を見ていないと適切な対処法がわからないままで、次回以降似たようなことが起きないようにする対策もとりづらかったです。
シングルタスクの重要性に気づいたきっかけ
「複数のことを同時にしようとすると、うまくいかないなぁ…」と思っていたときに『シングルタスク』という本を教えてもらいました。
この本は「マルチタスクをやめた方が生産性は上がる」という内容です。
もともと、私の中で「マルチタスクができる人」は、自分の注意力を複数に分割できるのだと思っていました。イメージとしては、AとBの仕事があったときに自分の集中力を2分の1ずつに割り振って両方とも進めるようなものだと思っていました。
ただ、この本によると、そもそもマルチタスクは存在しないそうです。人間の脳は一度に複数の事柄に注意を向けることができない構造になっています。
マルチタスクと呼ばれるものは、シングルタスクを次々と切り替えているだけ。実際はAとBを同時に進めるのではなく、Aのタスクをして、スイッチを切り替えてBのタスクをしている状態だと言います。また、スイッチの切り替えを行うと集中力が低下するということも書かれていました。
私はこの本を読んで少しほっとしました。「マルチタスクだとミスするのは私だけじゃないのか」と思ったからです。
実際にマルチタスクの方が効率いい場合はあると思いますが、私は体感的に合わなかったので「一つずつやっていった方がいいですよ」という本があって楽になりました。
ADHD診断後に変わった仕事の進め方
私はADHDの診断を受けてから、自分の注意力や集中力を信じることを止めました。注意力がないという前提で仕事をするようにしたのです。一つのことに集中していてもミスが出るのだから、複数の作業を同時に進めることはやめておこうというものです。
一つのことをゆっくりとして、確認する。それを終わらせてから別のことをしたいので、それだけのまとまった時間をとれそうなときに注意力の必要なタスクをするようにしています。
もしかしたら、タスクの内容や人によっては同時並行で進めた方が効率はいいのかもしれません。私は経験的に苦手だと感じているので、避けているというだけです。同じ仕事をするのであれば、自分にとってやりやすい方法で進めたい。その方法を見つけられればいいなと思っています。