『ナビゲーションブック』ってなに?
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2022.5.5
私は目が全く見えない全盲の視覚障害者です。そして、一応社員として働きつつもずっと転職活動もしている冴えない会社員です。そんな私は現在、求人サイト「パラちゃんねる」のWEBアクセシビリティチェックを担当しながら、求職者としても登録をしています。
執筆:愛美テミス Temisu Aimi
長年にわたり、ゆるく転職活動を続けている私。時間を見つけてはパラちゃんねるのWeb履歴書を見直したり掲載企業をチェックしたりしています。そんなとき、マイページのなかに『ナビゲーションブックをアップロード』という項目を発見!はじめて聞く単語。何これ?今回はそこからスタートします。
ところで、皆さんは就活の場面において「ナビゲーションブック」という言葉を聞いたことはありますか?
こんな時代ですので、スマホでサクッと調べるとすぐに答えは見つかりました。
障がい者職業総合センターのサイトによると、発達障がい者向けのサポートプログラムのなかで、この「ナビゲーションブック」を作成し、活用することが紹介されています。
「ナビゲーションブック」とは、自分の特徴、セールスポイント、課題とその対処方法、会社に理解・配慮してほしいこと、就職時・復職時の希望等をまとめたものとされています。つまり、自分の「トリセツ」とか「マニュアル」といわれているものです。
記憶を辿ると数年前から「自分のトリセツを準備しましょう!」とハローワークや支援機関で盛んに言われるようになったなと、それは視覚障がいの私も然りです。
ちなみに視覚障がいの私は「障がいおよび必要な合理的配慮について」という文書を準備しており、内容はトリセツとほぼ同じです。
では、なぜ「ナビゲーションブック」や「トリセツ」が必要なのでしょうか。
それは自分の障がい特性や希望する配慮事項を自分の言葉で説明することで企業側の理解や支援が得られやすくなるからです。
障がいもそれぞれの症状や特性により千差万別です。私には視覚障がいがありますが、同じ視覚障がい者でも本人に尋ねなければどんな困りごとがあるのか、どんな状態なのかは知る由もありませんし、他の障がいにおいては言わずもがなです。
所詮、他人同士であり、求職者と採用担当者も同じで「障がいがあり〇〇はできませんが、こういう配慮があれば〇〇までのことが可能になります。」と具体的に説明してもらえないと状況を想像して理解することはできません。
そういった意味で「ナビゲーションブック」「トリセツ」は抽象的表現ではなく、文字による具体的表現が中心となるため効果的と言えるでしょう。
「ナビゲーションブック」が活きる職場を実現するために
しかしながら、「ナビゲーションブック」を作成するプロセスは当事者にとって精神的負荷の高い作業であることはあまり知られていないのではないでしょうか。
私は子どもの頃は健常者と呼ばれるカテゴリーに属し、みんな同じでなければなりません。人に迷惑をかけてはいけません。障がい者はかわいそうな人だから、やさしくしてあげましょう…と教わりました。
ダイバーシティが謳われる現在でさえも、障がい児の普通校への入学が認められなかったり、その親を厄介者扱いするような報道が後を絶ちません。
「ナビゲーションブック」や自分の「トリセツ」を作成する作業は、自分自身と向き合い理解を深めた後に社会と照合する必要があります。その度に、私はやっぱり迷惑な人?厄介な人?という呪文に襲われてしまいます。こういった過去や現在の感情と折り合いをつけるために「ナビゲーションブック」を作成しているのかもしれません。
一方で企業側は「ナビゲーションブック」を活用できているのでしょうか。
現在、私は障がい者雇用の優良企業とされる会社に在籍をしています。先日、障がい者雇用担当のHさんに「ナビゲーションブック」について話す機会がありました。
私:Hさんは「ナビゲーションブック」ってご存じですか?
H:えっ、それは何ですか?
私:では、「自分のトリセツ」は?
H:あーそれ、この間採用した発達障がいの人に渡されたんだけど、色々といっぱい書いてあるし、あんなの渡されても困っちゃって……。
といった具合に一所懸命に作成しても活用されていなかったり、そもそもトリセツの意味や目的を知らなかったりとまだまだ浸透していないのが現状です。
「ナビゲーションブック」を活用できるのは発達障がい支援だけでなく、すべての障がいにおける就労継続やキャリア支援のためのアセスメントとしても有効な手段だと考えています。
障がい者雇用に関わる採用担当者や支援機関、また、求職者においても私のコラムが「ナビゲーションブック」を活用する機会となれば幸いです。
誰もが安心して働き続けられる環境が少しずつ増えていくことを願っています。
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Text by
Temisu Aimi
愛美テミス
産業カウンセラー/JPA認定カウンセラー。
1973年生まれ、中途失明の冴えない会社員。
視力がだんだん失われていった10代から30代にかけて感じた恐怖と、社会からの疎外感を忘れることができない。誰もが優しくつながる社会を理想に掲げ、現在ライフワークとしてブラインドのためのITサポートやピアカウンセラーとして活動をしている。さらに、晴眼者のITサポーター養成にも取り組んでいる。