障害者として考え、働き、そして生きること。
~障害が、必ずしも働くことに不利なわけじゃない
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2022.2.2
生きることは、とても大変です。厳しいことではありますが、今の社会の中ではお金がなければ、働けなければ、生きることが難しいということは抗えない事実でもあります。
その社会の中で、「障害」を持つ立場として生きる、その在り方について考えました。
執筆:いりえ(北橋 玲実)
私は発達障害ですが、2021年10月までの5年半ほど、一般企業の会社員として障害を隠して働いていました。今改めてその5年半を振り返れば振り返るほど、「つらかった」という思いは募るばかりです。
ASDの私は、人とのコミュニケーションがうまく取れません。ADHDも併発していますので、ちょっとした申請や書類にも容赦なくミスが見つかったり、空気が読めずに余計なことを口走ったりします。
会社員生活の5年半の間に部署異動は10回以上経験しましたが、どこの組織にいてもどことなく居場所を感じることができない…。そんな日々を過ごし、一時は精神疾患に悩みました。
もちろんそういった発達障害特有の特性そのものによって、私はたくさんの問題を抱えては来ました。ですが、今になって振り返り、障害の特性によって発生する仕事の課題そのものよりも大変だったと感じられることは、その課題に対する自責の念が非常に強かったということです。
私は会社員時代にずっと健常者に囲まれて働き続けていました。そして私もクローズ就労という形で私自身の障害を誰かに話すことはなく、健常者のふりをして生きていました。
だからこそ健常者の働き方や彼らの働くことや生きることに対する姿勢も私自身はよく理解していると思います。
私自身が障害者として、健常者とともに働いてきた中で気づいたことは、障害者の「働く」ことには、健常者にはない強みが少なからずあるのでは、ということです。
たとえば、健常者の中でもとりわけ能力が高く、会社や上司の期待にそつなく応えられるいわゆる「優秀な人」たち。彼らは、目の前の仕事や課題、人間関係をある程度こなすことができ、評価もされています。
それ自体は障害を持つ人からすると羨ましい事のように思えます。しかし、実際はそうとも言えません。
現状の働き方に極端な苦労がないことが裏目に出て、自分の現状に疑問を持つことがなく、現状をなかなか変えようとしない傾向があるからです。
心理学の理論に、「損失回避バイアス」というものがあります。これは現状を捨てる選択によるリスクを過大に評価し、本当は苦痛を感じている現状を続けることに固執してしまうことを指します。前述の「優秀な人」はこういったリスクを抱えていることは否めません。
現状で何とかやれている以上、大きなリスクを背負ってまで、自分を変える選択をしようとする勇気は出てこないものです。
一方、私たちのような障害を持つ人たちは、普通の社会人生活を送っていくことに対して、様々な場面で困難を覚えてしまいがちです。
だからこそ、現状に強い苦痛を感じている障害者は、健常者よりも「変えたい」「何とかしたい」という思いが強いことも事実です。
それに加えて、自分の能力や適性、その反対の苦手分野といったものに対する理解が非常に深いといった大きな強みがあります。表面上は「扱いづらい人」という評価をされがちではありますが、自分の生き方や仕事に対する課題意識や当事者意識が強いとも言えます。
カリフォルニア大学のとある調査で、起業家の約3割がADHDを持つといった調査結果も挙げられています。
もちろんすべての発達障害の人が起業するべきかというとそんなことはありません。が、働き方の一つの選択肢として発達障害者の可能性という観点では、1つ希望を持つことができることではないのでしょうか。
現在発達障害の診断にもちいられているDSM-5によると、ADHDであれASDであれ、それが日常生活の中で障害として感じられない限りは障害にはなり得ない(診断されない)ようです。それは以下の条件が診断にもちいられていることから明らかです。
“発達に応じた対人関係や学業・職業的な機能その他の重要な機能が障害されていること”。
よく考えれば当たり前のことですが、その人の暮らす環境や人間関係によって、自分の性質が障害になるか否かは大きく変わってきます。こう考えると、自分自身の持っている障害に対する認識が少し変わるのではないでしょうか。
確かに生きることは大変です。それはどんな人にとってもそうかもしれません。
でも、今この瞬間この文を読んでいるあなたが生きていることは誰にも否定しようのない事実です。
「生きるだけで大変なこの社会のなかでも、あなたは生きている」という事実だけで、あなたはこれまでも今この瞬間も成し遂げていることがあるのは確かです。
もちろんそれが周囲の人や社会に理解されないと思うこともあるかもしれません。いろんなことを投げ出して将来を諦めたくなることもあるかもしれません。それでも、今あなたが生きている以上、これからのあなたには、目に見えないたくさんの可能性があります。
むしろ、障害を持つからこそ、もしくはできないことがあるからこそ、人よりも強く「誰かの役に立ちたい」「自分を変えたい」と思ったことだってあるはずですし、それは紛れもなく私たちの強みです。
そして、あなたが今どんな状態だったとしても、あなたがただ「そこにいる」ことで誰かに貢献しているはずです。
あなたもきっと、「この人がいてくれるだけで安心」「あの時のこの言葉が自分を変えてくれた」といった経験があるはずです。そのくらい、私たちは気づかずに人に影響を与えているものです。
数値や成果ばかり求められる息苦しい社会ですが、あなたの考えや思いを理解してくれる人は必ずどこかにいます。あなたの存在やチカラを求めてくれる人もまた、いるはずです。
だからあなたもあなた自身に失望することなく、いまのあなたが少しでも変えていけることを見つけ、幸せになることや楽になることを求めていく、そういった明るいイメージをしてみませんか。あなたにはきっと、できるはずですよ。