PARA CHANNEL Cage

がんの再発への不安と仕事の充実感との狭間で揺れる心のバランス

1 1

2021.4.16

2020年6月、私は滑膜肉腫というがんの治療のために左足を下腿切断しました。早期発見が難しいがんということもあり、3ヶ月に1度、病院で検査を受けています。がんの再発に対する不安を感じながらも、毎日充実した社会人生活を送っている心模様をまとめました。

執筆:林 力希 Riki Hayashi

左足下腿切断から2ヶ月後の検査結果

私は2020年6月、滑膜肉腫というがんの治療のために左足を下腿切断しました。それから義足での生活がスタートしました。

滑膜肉腫は悪性軟部腫瘍の一種です。腫瘍のサイズが大きくなるまでは、目立った痛みは発生せず、レントゲンにもうつらないため早期発見が難しいがんです。

そのため、私は3ヶ月に一度必ず病院で検査を受けて、医師に再発の有無をチェックしてもらっています。

足裏にできた腫瘍の治療のために、足首より上からを切断したのだから、当然、再発リスクを極小化することができた。そう思っていました。

しかし、切断から2ヶ月後の2020年8月の検査で肺に腫瘍と思われる点があると言われてしまいました。

まだ腫瘍の疑いがあるという段階で、治療の必要はなく経過観察でよいとのことでした。



転移への不安から、元気を取り戻すことができた考え方

当時、私は、社会復帰に向けて、義足のリハビリを専門施設に泊まり込みで行っていました。

ここを乗り越えれば、元の生活に戻れるという希望を胸に、頑張っていたので、とてもショックでした。

切断したのだから、転移なんてあり得ないと思っていました。

その晩は眠ることもできず、
「滑膜肉腫 再発」
「滑膜肉腫 転移」
「滑膜肉腫 闘病」
と、ひたすらインターネットで検索しました。

とにかく、滑膜肉腫の罹患者で生き延びている人を探そう。
安心したかったのです。

調べると、AmebaブログやInstagramで闘病の経験を伝えている方々を何人も発見しました。

転移しても生き延びている方、残念ながら亡くなってしまった方。自分の病気の恐ろしさを再確認しましたが、自分よりもっと大変な状況の方のリアルな、楽しいこと、辛いことの発信に触れて、少しずつ元気を取り戻しました。

そして、
「なってしまったものは仕方ない、検査で問題がなければこの先もずっと普通に生活できる。大事なのは今をどう生きるか。」
そう思えるようになりました。

とはいっても、気持ちの折り合いをつけることは一時的には可能でも、その時の心の調子によってはどうしようもなく辛い時もあります。

「気を逸らす」大切さ

入院中に気づいたことがあります。

「気を逸らすことが気持ちの折り合いをつける上でもっとも大事である。そして時間が経てば、なぜか気にならなくなる。」

ということです。

会社に復帰した今は、なおさらそう思います。

入院中は暇が多かった上、暇潰しになる材料にも限界がありました。たくさん悩みましたし、心も病みました。

10月8日に退院してからは、なるべく暇を作らないよう予定を入れるようにしていました。とにかく気を逸らすのです。

そしてあっという間に12月1日。会社復帰の日になりました。その頃には、あんなに悩んでいた再発疑惑のことは思い出さなくなっていました。

4月、現在に至るまで、お仕事をさせていただいておりますが、毎日働くことを嫌と思いません。刺激的な毎日を送っていると感じることができています。

集中して業務に取り組み、疲れて熟睡。このサイクルの中には、悩んでいる暇が入り込みません。

入院を経て私は、仕事ができることをありがたいと感じる境地に至ったようです。



働くことは毎日を充実させてくれる

とはいえ、3ヶ月に一度検査の日はやってきます。

あらかじめ検査日は所属部署の課長に伝え、午前中の勤務がないようにしていただいております。こういった配慮のおかげで、問題なく検査を継続して受けることができます。

検査は朝9時から始まります。前日の21時から、水以外のものを口に入れることは禁止されます。

当日は眠い目をこすりながら電車でがん研有明病院へ行きます。抗がん剤を受けていた頃、切断手術をした頃、色々なことを思い出しながら感傷に浸ります。

検査を受けた後は、必ず好きなものを好きなだけ食べて、診察に備えるようにしています。

診察の結果によっては、即、入院と宣告される可能性もありますからドキドキの心境です。

「もし再発していたらどうしよう。」

まわりの患者さんを見て「なんのガンでここに来ているんだろう」「義足は俺だけだな、切断治療は回避したのかな」といろいろな事を考えながら、呼び出しを待ちます。

そして先生から結果を伝えられます。直近の検査では、切断した部分に腫瘍らしき点があり、腫瘍の疑いありという結果でした。

「先生は経過観察するしかないからね〜」
とおっしゃいます。

それから
「YouTubeは最近投稿してるの?」
「お仕事頑張ってるの?」
なんて会話をしてから、次回の検査日を決めて、診察室を出ます。

軽くショックを受けながら、家族にLINEで報告し、仕事に向かいます。

そこからの気持ちの立て直しは前述の通りで、
「気を逸らすことが気持ちの折り合いをつける上でもっとも大事である。そして時間が経てば、なぜか気にならなくなる。」
という心構えです。


そして現在まで、経過観察の状態で過ごしています。

がんになってしまったことは仕方ない。折り合いをつけるのは難しいけれど、何かに集中している時、何かすることがある時、生きている事を実感できます。

「働くこと」は毎日を充実させてくれている。そんな事に気づくことができました。

1996年生まれ。義足を履いたサラリーマン
2019年損害保険ジャパン株式会社入社。営業職を経験。2020年6月に滑膜肉腫というガンの治療のため左足を膝下から切断する。義足のリハビリを経て、2020年12月から自動車事故の初期対応の業務に従事。YouTubeにて、義足での日常をアップロードしている。

このライターが描いた記事

関連記事

障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」新規登録受付中!!

マンガで分かる!採用担当者必見、採用前・面接・採用後など場面別のポイント全部解説! ADHD編

マンガで分かる!採用担当者必見、採用前・面接・採用後など場面別のポイント全部解説! 車いす編

マンガで分かる!採用担当者必見、採用前・面接・採用後など場面別のポイント全部解説! ASD編

LINE 公式アカウント友達募集中! ID:parachannel