障害者が新しい職場環境に加わるときに心がけたい3つのこと
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2021.7.14
就職や転職、部署異動をすると、職場の人間関係をイチから始めなくてはなりません。周囲からの期待と、本人の実態がかけ離れているとトラブルやミスの元となります。今回は、新しい職場環境に入る際の自分と職場を守る工夫についてご紹介します。
執筆:森本 しおり Morimoto Shiori
発達障害は凸凹があるので、周囲の期待とのギャップが生じやすい
発達障害はよく「凸凹」と表現されます。得意なことと、苦手なことの差が激しいのです。
私自身も、以前受けたWAISテストによると、言語性IQは平均よりも高い118でしたが、目と手を効率よく動かす処理速度のIQは平均以下の85でした。
この結果を仕事の場面に落とし込むと、上司から仕事の説明を受けたときの理解度は高いのに、仕事の出来はイマイチなことが多い、ということになります。我ながら、残念なギャップです。
そこで、そのギャップを埋めるために、転職や異動などで新しい職場環境に移るときは「周囲からの期待」を把握しようと意識しています。
これは、発達障害に限らず、精神障害の方など「周囲に困難が伝わりにくい人」ほど必要な作業だと思っています。
①周囲に何を期待されているのか聞く
新しい職場環境に移った時にはまず、「周囲に何を期待されているのかを聞く」ことから始めます。
会社(部署や上司、職場とも言える)では、はっきりと口に出さなくても、自分自身に対する要望があります。
「3か月ほどでこの仕事を一人で完結できるようになってほしい」という成長目標は分かりやすい要望ですし、「Aの仕事より、Bの仕事を優先してほしい」という与えられた仕事の重要度の把握も当てはまります。
最初の数か月で会社のルールや価値観を把握しようと努めつつ、自分自身の成長目標や仕事の優先順位を確認していきます。
このとき、誰かから伝えてくれるのを待つのではなく自分から質問をして一つずつ確認することが大切です。
成長目標は上司との会議・ミーティングを設定して、確認する時間を確保します。自分から進んで設定することで、定期的に実施できるようになると楽です。
また、「次は何をしたらいいですか」「今、この仕事をしていても大丈夫ですか」と確認を進めることで仕事の優先度が見えてきます。自分の判断が間違っていれば訂正してくれますし、合っていれば了承してくれます。
慣れている人は、そこまで意識しなくても自然と進めていることが多いのではないでしょうか。
上司によっては黙っていると「何も聞いてこないから、問題ないのだろう」と捉える人もいます。入社してからしばらく経つと聞きづらくなってしまうので、入社直後に確認の時間を確保したいところです。
②自分の得意なこと・苦手なことを伝える
次は「自分の得意なこと・苦手なことを伝える」です。
会社の期待に応えたい気持ちがあっても、毎回上手くいくとは限りません。特に障害特性が関わってくると、その難易度が上がります。
障害特性に端を発する苦手なことは、自分から徐々に発信していく必要があります。これも早め早め、先手先手が大切です。
「もともと〇〇が苦手です。改善に取り組みますが、時間がかかるかもしれません。」という表現ならば、伝わりやすいかもしれません。
私は、障害特性によって苦手な仕事がある分、自分が得意な仕事は率先して行うようにしています。「〇〇をやってもいいですか」と、自分から仕事を取りに行くイメージです。
得意なことで自身の価値を発揮する意識を持つことで、働くことがだいぶ楽になりました。
③すり合わせをする
最後は「すり合わせをする」です。
障害特性で難しかったとしても「この仕事はできません」と仕事のやり取りを終わらせてしまうと、周囲の人が困ってしまいますし、コミュニケーションとして気持ちの良いものではありません。
逆に、無理をして、自分のできないことにチャレンジし続けても、仕事が終わらなかったり、自分が倒れてしまったりといいことはありません。
何ができて、何ができないのか。何は任せることができて、何は任せられないのか。お互いにとってちょうど良い中間地点を探ることが大切です。
また、周囲に配慮を求めるだけではなく「これはできる」と提案することがコツです。
すり合わせが必要なケースとして分かりやすいのは、初めての仕事を任せられるときです。
私の場合、すぐに引き受けずに「初めての仕事なので、やり方を教えてもらえますか」と質問します。「とりあえずやってみてほしい」と言われることもあるので「上手くいくかわかりませんが、チャレンジしてみます」と伝えます。
大事なことは、相手に自分の状況を知ってもらうこと(=すり合わせ)です。これは障害配慮のひとつだと私は考えています。
会社側に求めたいこと
会社側も、障害者社員を受け入れるに当たって、すべての用意を先回りしておくのはむずかしいはずです。
そこで、配属後の1,2週間で、仕事の受け渡しをしながら、ここまで伝えた3点を把握していただいたり、すり合わせていただけると嬉しいです。
また、私のような障害の場合だと、仕事を頼むときに「何をして欲しいのか」を具体的に言葉にしてもらえると助かります。
特に発達障害の人は「見て学べ」というスタイルが苦手な人が多いです。言葉が不足していることで、ミスやトラブルにつながるので、仕事の受け渡しに工夫していただけるとありがたいです。
まとめ
今回は、就職や転職、部署異動直後にやった方がいいのでは?ということについてまとめてみました。
新しい職場環境に加わったのなら、なるべくそこで働き続けたいものですし、成果を出したいものです。
今回紹介した3つのことは、それぞれ独立したステップというよりは、相乗効果をもたらします。
快適な職場環境は最初から用意されているものではなく、お互いに歩み寄りながら作っていくものではないでしょうか。
Text by
Morimoto Shiori
森本 しおり
1988年生まれ。「何事も一生懸命」なADHD当事者ライター。
就職後1年でパニック障害を発症し、退職。27歳のときに「大人の発達障害」当事者であることが判明。以降、自分とうまく付き合うコツをつかんでいる。プラスハンディキャップなど各種メディアへ寄稿中。