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メンタル弱めな私と、何でもお見通しな漢方のお医者さん。

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2023.5.23

私は約7年前に漢方の通院を始めた。私にとって漢方の通院は体調管理のためだけれど、それだけじゃない。1カ月に1度、会いに行き「こんな一カ月でした」と伝えて「そう」と返してくれるだけで、私はちょっと「これからも、大丈夫そうだな」と思える。そういう、貴重な時間なのだ。

執筆:森本 しおり Morimoto Shiori

私の漢方の先生は、占い師みたいだ。

顔色や表情から察知する能力がすごい。話をする前から、何でもお見通しという感じがする。

診察室のドアを開けて、開口一番に「まあ、人生色々あるわよ。」と言われた日には笑ってしまった。まだ何も言っていないのに何を読み取ったのだろう。第六感?

私にとって漢方の通院は体調管理のためだけれど、それだけじゃない。こんな親戚がいてくれたらよかったのになぁと思う。なんだか、会えるとホッとする。私がどんな話をしても、どんな状態で会いに行っても、先生はどっしりと構えたまま揺らがない。

1カ月に1度、会いに行き「こんな一カ月でした」と伝えて「そう」と返してくれるだけで、私はちょっと「これからも、大丈夫そうだな」と思える。そういう、貴重な時間なのだ。


私は約7年前に漢方の通院を始めた。病気とは呼べないくらいの小さな体調不良がたくさんあったからだ。

すぐにメンタルが揺らぐし、それは身体に色々な症状として出てしまう。生理痛は重いし、風邪を引きやすい。アレルギーなのか、肌が弱いのか、時々じんましんのようなものが出てかゆくなる。冷え性で、何かと体力がないし、睡眠も浅い。

どれから手をつけていいのかわからないけれど、とにかく体調不良で仕事に支障をきたすのを止めたかったから、近くの漢方のクリニックに通い始めた。

そこで会ったのが、田辺先生(仮名)だった。

真っ白な診察室のドアを開けて、少し驚いた。目に飛び込んできたのは、真っ赤な髪の毛。年齢は60歳過ぎくらいだろうか。とにかく真っ赤なボブが目立つ、おばあさん先生がニコニコしながら座っていた。

私は内心「漢方って、もっとナチュラルな先生を想像していたわ」と思いながら、すすめられるがままに椅子に座った。

初診で何の話をしたのかは覚えていないけれど、たぶん体調不良だけでなく悩み相談をしたのだと思う。

数種類の漢方を処方してくれた後、「また来なさい」と言われた。そこから私の通院が始まった。


田辺先生の診察は変わっている。「最近どう?」と体調の変化を一通り聞いたあと、色々な質問をする。「それも、診察ですか?|と首をかしげたくなるようなこともたくさん聞くので、最初はびっくりした。

「首のところ、赤みが出ているわよ。シャンプーは何を使っているの?」と聞かれて、ドラッグストアで買っているふつうのやつだと答えたら「あなたは敏感肌だから、合わないのかもね。これ、サンプルをあげるわ。」と、薬局で売られているシャンプーの試供品をくれた。

冬の日は「冷えている。部屋の中で、暖房はつけている?」と聞かれて、エアコンが得意じゃないからあまりつけないと答えたら「エアコンが苦手なら、コタツを買ったら?なるべく身体を冷やさないように、夜には湯船につかって。」と言われた。

他にも、診察でお腹を見ながら「下着が合っていないんじゃない。赤く跡が残っているわよ。」とか「甘い物は好き?白い砂糖は身体を冷やすから、なるべくひかえて。」と言われたりした。

仕事や恋愛で何かあるときは、ただの悩み相談の時間になることもある。サバサバとしていて、大抵のことは「そういうこともあるわよ。」と肯定しながらも、サラッと流してくれる田辺先生に話を聞いてもらうと「そうか。そんなものか。」と思える。

私は「精神科では病気のことしか聞かれないのに、田辺先生は不思議な先生だな。」と思った。それは漢方の考え方もあったのかもしれない。漢方の通院を始めてから、着るものや、スキンケア、食べるものも少しずつ変わっていった。

昔から私は感覚が鈍いのか、自分の体調不良に早めに気づけなかった。怪我をしたり、病気になったりした後になって「最近、忙しかったから、疲れが溜まっていたのかもしれない」と反省してばかり。

田辺先生のところに通うようになって、色々と指摘をされて自分のことを知っていった。チクチクする衣類が苦手で、疲れると肩や背中が固くなる傾向があって、お腹が弱くて、手足が冷えやすく、イライラが溜まるとのどがイガイガして咳が増える。それが私。


田辺先生は、少しずつ元気になっていった私を見て「最近、きれいになったわ。」と褒めてくれる。「いい表情をするようになった。最初にここに来たときは、もっと暗い顔をしていたもの。」と、目を細める。

いつもは誉め言葉に対して照れ隠しをしてしまう私も、田辺先生相手なら「ありがとうございます」と素直に受け取れる。

ある日、鼻をグズグズさせている田辺先生に「風邪ですか?」と聞いたら「そうなのよ。耳鼻科行かなきゃとは思うんだけれど、病院ってキライで…。」と言っていた。「え、先生も医者なのに?」とツッコミを入れそうになったけれど、それも田辺先生らしい気がして笑ってしまった。

病院に行かないのかもしれないけれど、これからも元気でいてほしい。田辺先生のような先生にはなかなか出会えない。

次に会うときは、ドアを開けたら何と言われるだろう。その一言が楽しみだ。

1988年生まれ。「何事も一生懸命」なADHD当事者ライター。
就職後1年でパニック障害を発症し、退職。27歳のときに「大人の発達障害」当事者であることが判明。以降、自分とうまく付き合うコツをつかんでいる。プラスハンディキャップなど各種メディアへ寄稿中。

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