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発達障害当事者の私にとっての自立と家事の関係性。

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2023.7.11

私は学生の頃、「社会人になったら、自然と自立するのだろう」と思っていました。ところが、そう簡単にはいきませんでした。今回は、発達障害当事者の私にとっての「自立」と、家事の話です。

執筆:森本 しおり Morimoto Shiori

私は学生の頃、「社会人になったら、自然と自立するのだろう」と思っていました。仕事をして収入が得られれば、一人暮らしができる。少しずつできることが増えれば、誰かに支えてもらわなくても平気になるはずだと思っていました。

ところが、そう簡単にはいきませんでした。

今回は、発達障害当事者の私にとっての「自立」と、家事の話です。


実家にいた頃、「家事を母にやってもらっているから、自立している感覚が得られないのだろう」と思っていました。私の中で自立している人のイメージは、バリバリ働いている人というよりも、ていねいな暮らしをしている人でした。

自分の家や部屋をきれいに保ち、自炊をする。家事の中でも、特に掃除と料理を重視していました。

部屋に関しては、ADHDとの関係もあるかもしれませんが、ぐちゃぐちゃの汚部屋時代が長く、それが嫌で仕方ありませんでした。部屋が乱れるときは、心の調子が悪いとき。部屋は心を映す鏡。片付けができれば、色々な問題が解決するような気がしていました。

他にも、片付けへの強い憧れは、当時の時代背景も関係していると思います。大学生のとき、断捨離やこんまりさんの片付け本、ミニマリストが流行っていました。ぐちゃぐちゃの部屋は自立していない人の証のように感じていました。

料理も、頑なに自炊にこだわっていました。育った家庭の影響も強いと思います。母は口ぐせのように「買ってきたものより、自分で作った料理の方が美味しい」と言っていました。

映画の中では、手料理が「暖かくて、満たされること」の象徴のように描かれています。都会で仕事に疲れた人が誰かの手料理でホッと一息つく。そんなストーリーが好きでした。

自立のイメージが「片付けと掃除ができていること」から離れていったのは、一人暮らしを始めたことでした。

一人暮らしを始めたばかりの頃は張り切って家事をしていました。毎朝のようにクイックルワイパーをかけて、料理も色々なものに挑戦していました。

一人でできるようになることは嬉しいものです。一人暮らしを始めたとき、レイアウトを考えるのにワクワクしました。好きな家具に囲まれたとき「自分はこういう部屋が好きなのか」と知りました。

料理も、自分の好きな料理が作れるようになりました。結局、同じような味付けやメニューになってしまいますが、それでも好きなものは好きです。ハンバーグや餃子を作った日は「今日はご馳走だなぁ」と嬉しくなりますし、風邪をひいたときはうどんが食べたくなります。


しかし、ある時「ここまでやる必要はあるのか?」と疑問になってしまったのです。たしかに換気扇をピカピカにしたら気持ちがいいし、冷蔵庫に作り置きがあると豊かな気持ちにはなるのですが、そこまでです。

「どんなときでも部屋をピカピカに保ちたい」としても、そんなことはできません。生活するだけで髪の毛は落ちるし、ほこりも溜まります。匂いもつくし、汚れることもあります。そういうものです。

料理も、どんどん手抜きをするようになってきました。「手をかければかけるほど美味しくなる」というわけではないと感じます。なんなら、頑張って作った料理より出来合いのものの方が美味しいときもあります。

「家事は砂のお城のようなものだ」と言っている人がいました。どれだけ頑張って時間をかけて作り上げても、一瞬で崩れてしまう儚いものだと。家事に手間暇や時間をかけてちゃんとした状態を守り続けることが自立なのか、よくわからなくなってしまったのです。


実家にいた頃の私にとって、自立とは「自分ひとりでできるようになること」でした。特に、掃除と料理ができる人に対して強い憧れがありました。

実際に一人暮らしを始めてみると、自分でできることが増えるのは嬉しいものでしたが、それは少し自立とはちがうような気がしました。

本気で目指したところで完璧な人にはなれませんが、それを目指していた時期はある気がします。

家事に関しては、多少の汚れや手抜きがあってもいいじゃないかと思うようになりました。「ここまでやる」のラインを厳しくしていくのは、私の目指したい姿とはちがいます。ただのめんどくさがりなこともありますが、求める基準を厳しくしていくと自分と他人に寛容でなくなっていくような気もします。

今の私にとって自立とは、「他の人と一緒にいながら、自分らしさを保てること」です。自分とはちがうルールで生きている他者と、共存できるようになれるといいなと思っています。

1988年生まれ。「何事も一生懸命」なADHD当事者ライター。
就職後1年でパニック障害を発症し、退職。27歳のときに「大人の発達障害」当事者であることが判明。以降、自分とうまく付き合うコツをつかんでいる。プラスハンディキャップなど各種メディアへ寄稿中。

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