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自分を叩き壊したかった全盲の私が、今は自分を愛していると言える理由

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2023.7.22

生まれつき目が見えない。人と話すのが苦手。そんな私は昔、とにかく自分に自信がなかった。それでも30を過ぎた今、そのネガティブな気持ちを手放し始めているのを感じる。自分を愛している、と今なら確かに言える。それはなぜか。心にどんな変化が起きたのか。振り返ってみようと思う。

執筆:山田 菜深子

生まれつき目が見えない。人と話すのが苦手。そんな私は昔、とにかく自分に自信がなかった。どうしてこうもダメなのか。他人と比較しては落ち込むばかりだった。

それでも30を過ぎた今、そのネガティブな気持ちを手放し始めているのを感じる。自分を愛している、と今なら確かに言える。

それはなぜか。心にどんな変化が起きたのか。振り返ってみようと思う。

ダメな自分を語り出したら止まらない

「自分に自信がない」ということには自信があります!

昔SNSのプロフィール欄でそんな自慢(?)をしたことがある。「自信がない」などと宣言されたところで「だから何?」という話なのだが、私が自信をもってアピールできることは本当にそれぐらいしかなかったのだ。

生まれたときから目が見えず、不器用で、できないことが多い。おまけに人と話すことがとてつもなく苦手。「もっと積極的になりなさい」「そんなんじゃダメよ、変わらなきゃ」といつも周囲から苦言を呈される。それが私という人間だった。

こんな自分なんて、きっと何の役にも立たない。要らない。みんなに迷惑をかけるだけの存在。叩き壊してやりたい。私の心は自己否定で埋め尽くされていた。

誰からも愛され必要とされる積極的で明るい女の子を見ては、「どうしてあんな風になれないのだろう」と落ち込んだ。

「私なんて……」と自分のダメなところを挙げ始めたらもう止まらなかった。喋るのは得意ではないはずなのに、このときだけは饒舌になるから不思議だ。


「自分だけは例外」と考える自分に困惑

だがあるとき、「この状況を抜け出さなければ」という思いを抱いた。大学で社会福祉を学んでいた頃のことだ。

講義を受けていると、「すべての人が人間としての尊厳を有し、価値ある存在」という理念をよく耳にした。私は、「そんな当たり前のこと、わざわざ教えてもらわなくても」と密かにぼやいていた。十分わかっているつもりだったのだ。

その一方で、「すべての人」の中に自分は入らないと信じ込んでいた。自分だけは、今すぐに消えてしまってもいい。どうせその程度の存在。そう思えてならなかった。

偉そうに「当たり前のこと」などと言いながら、誰より近くにいる人間の価値を、私は認めていなかったわけだ。その矛盾に思い至り、愕然とした。

そのとき強く感じたのだ。自分をもっと好きにならなきゃ、と。

行動してみたけれど

自分を好きになる。そのために始めたのは、自分を変えるための努力だった。

友達の輪を広げたくて、人の集まるところにどんどん出かけて行った。世の中の役に立つことがしたくて、ボランティア活動に関わってみたりもした。

20代の頃はとにかく必死で動いた。1人で読書などしている時間が好きだったのだが、それを大幅に削った。「誰からも愛され必要とされる積極的で明るい女の子」を目指し、全力疾走したのである。

おかげでたくさんの出会いに恵まれた。それまで持ち合わせていなかった行動力も身につけることができた。これには満足している。

だが、本質は何も変わらなかった。自分を好きにはなれなかった。私はやっぱり何の役にも立たない。そう再認識するばかりだったのである。


そのままの自分を活かす

結局、自分を変える努力はやめてしまった。理由は単純。「疲れたから」だ。

歳のせいだろうか、30を過ぎたあたりから、気力がなくなってきたのだ。いろんなことがどうでもよくなった。ただただぼんやりしていたくなった。

「困ったことだ」と言いたいところだが、これが意外と悪くなかった。ぼんやりしてみたことで、努力が実らなかった理由に行きついたからだ。

私がこれまでしていたことは、「人からよく思われるための努力」だった。よく思われさえすれば自分を好きになれると考えていた。「自分がどう生きたいか」ということには全く意識を向けていなかった。だからうまくいかなかったのだ。

どう生きたいか。目指してきた理想の人間に、本当になりたいのか。自分に問いかけてみると、答えは明確だった。「そのままでいたい」。

そうだ、そのままでいい。いや、そのままがいいのだ。考え方をその方向に切り替えると、急激に楽になった。エアコンの温度調整に成功したような心地よさに包まれた。

これからはもう、無理してよく思われようとはしない。自分を変えるのではなく、今の自分を活かすことにしよう。そう決めたのだった。

今もまだ、自己否定の波に襲われて苦しくなることは時々ある。他人と比べてしまい、落ち込むこともある。そうなることを避けるために、できる限りSNSとは距離を置くようにしているというのも事実だ。

それでも今は、人と話すのが苦手だったりする私が、ちょっと輝いて見える。もう、自分を叩き壊そうとは思わない。人の目などスルーである。

私は確かに、そのままの自分を愛しています。自信をもって、そうアピールできそうだ。

1987年生まれ。先天性全盲。「必死に頑張らない」がモットーであるが野望は大きく、世界を変えたい思いでライター活動を行っている。Amazon Kindleにてエッセイ集『全力でゆるく生きる~全盲女子のまったりDays~』を配信中。またブログやYouTubeで全盲当事者のリアルな日常を発信中。

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