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福祉専門職の欺瞞

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2024.2.23

今回はプロフィールにも書いている当事者(精神障害者)と支援者(PSW:精神保健福祉士)の視点から見た、今の福祉のいびつさに関しての記事です。両方の立場を経験しているからこそ見えてきたのは…

執筆:糸ちゃん

どうも、5回にもわたる長ったらしいコラムを終えて(しかも意味ありげな締め方をして)「コイツはもう終わりかな」と、読者の皆さんが油断しているところに一撃をくらわす糸ちゃんです。お前ら油断してんじゃねえぞ!

 さて、今回はプロフィールにも書いている当事者と支援者(PSW)の視点から見た、今の福祉のいびつさに関しての記事となります。まずは就活の話です。

自己紹介コラム第5回にて、3年間A型作業所に通っていた時期のことを「虚無」の一言で切り捨てましたが、本当は色んなことがありました。

私の通っていたA型はスーパーだったのですが、まあ吾輩は超有能なのでバイト程度の仕事はすぐにマスターして完全に飽きたわけです。

……一応書いておくと、ここで働くことでしっかりとした就労習慣と規則正しい生活を身につけられたので、心から感謝しております。また、A型(福祉の作業所)の仕事は全部くだらないなどと言いたいわけではないです。というかすべての仕事は尊いという立場に私は立っています。そこはお忘れなく。

では言い訳が終わったので続きを書いていきますが、クソつまらん仕事を繰り返す毎日の中で私の心は自然と就活に向かっていきました。もちろん目指すは正社員です。普通の企業の面接も受けたし、障害者の特例子会社の実習に行ったり、それなりに頑張っていました。しかしなかなかうまくいかず途方に暮れていた頃、ふと思ったのです。

「あれ? 俺って精神保健福祉士の資格持ってんジャン。国家資格あるなら就活とか余裕じゃね?」と。

そこからの行動は早く、すぐに担当の相談員に話して市内の精神科領域の事業所や病院に片っ端からアタックをかけました。燦然と輝く国家資格持ちのオイラがです。どうなったと思いますか? 

答えはそう、全滅でした。

まず、信じられないかもしれませんが応募すらさせてもらえないことが何度も続きました。流れとしてはこうです。

応募したい旨を相談員に伝える→それから相談員が数週間経ってやっと電話してくれる(さらにそこから数週間返事を待つ)→病院や福祉事業所から「精神障害者にウチの仕事は務まらない」と言われる→自分はゴミだと感じ、病状が悪化する。
以上。

どうでしょうか。「当たり前だろ」と思われたそこのあなた、福祉専門職の素質があります。

そうなのです。学校や研修で散々「障害に注目するのではなく、個別化して当事者と接し、『その人』を理解することに尽力する」とかなんとか平素から美辞麗句を並べたてて絶頂せんばかりの勢いで自己陶酔している人たちが、いざ当事者が門戸を叩くと会う価値すらないと断じるのです。

これはあまりに病的な、被害妄想的な解釈でしょうか。確かにそのように判断したのは組織の上層部の人たちで、PSW・専門職は意思決定に介在していなかったのかもしれませんね。もしそのプロセスに関わっていたら、「そんな差別はいかん! ちゃんと本人と話してから雇用を判断すべきだ!」なんて戦ってくれたのかも、と(ありえんけどな、ヘヘッ)。

ただ、何とか面接までこぎつけた福祉事業所でも、初めから終わりまで延々と私の精神障害のことばかり訊かれ、人柄だの能力だのには何の関心も示されなかったことを事実として補足しておきます。

もう一つエピソードがあります。私は現在訪問介護事業所で事務の仕事をしているのですが(そこの方たちは障害ではなく、私個人と向き合ってくれます)ヘルパーとしても動けるようになるため、毎週研修を受けに行っているんですね。それで前回の研修ですが、まあ酷かったです。

内容としては「障害の理解」というカリキュラムで、身体障害の後に精神障害の講義も受けます。その中で私の患う双極性障害の説明が始まりました。それはこんな話でした。

「この病気の連中は躁状態になると平気でウソをつき、周囲を振り回します。かと思ったら急に鬱状態に陥り、リストカットや自殺未遂を繰り返すのです。なので、こういう人たちが自分の過去などを迷惑にも打ち明けてきたら、『大変だったんだね』とかなんとか言って合わせてあげましょう」

多分に私の主観と例によって被害的な解釈が含まれていますが、大体こんな内容でした。

私は元々、その日は朝から調子が悪く不安発作を起こしかけていたのですが、講義がこの部分に至るとそれはピークに達し、正気を保つのでやっとの状態でした。頭の中はグチャグチャになり呼吸困難寸前、あと発狂して暴れ出してしまうのではないかという恐怖に数時間晒され続けたのです。

ちなみに研修を実施している学校は全国に支部があり、「介護の資格を取るならココ!」的な位置づけの超大手であります。そんな一流企業が派遣してきた専門の講師が延々と上記のような話をしてくるのです。

……あのさあ、「個別化」はどこいった!? 「当事者と向き合う」&「ラポール(信頼関係)の形成」は!? もう今度からお前らそれを口にする時かならず(笑)をつけろ! そんでさっさと〇ね! 

ハァハァ、ちょいとヒートアップしちまったゼ。以上、私が体験した、偉い福祉の専門職が実は一番当事者を見下しているのではないかという問題提起でした。

私自身の考察を述べると、志高く福祉業界に入ってきたかつての理想に燃える熱い専門職たちも、日々の業務と福祉のリアルな現場の数々に消耗し、理想や習ってきたこととのギャップを痛感した結果、いつかやさぐれてしまうんでしょうね。

そして、ベテランになるほど専門職としての知識や自己の経験に照らし合わせて、また業務を効率化するため画一的に当事者と接するようになり、それでまた当事者と良い関係を築けずに偏見を深める悪循環が生じている、といったところでしょうか。

一方、志なんて元からない人たちはハナから当事者を理解する気なんてさらさらなく、ただ障害者の相手をして給料をもらうという現実的な目的しかありません。そして、熱意をもって(持ちすぎて)潰れていく心ある専門職に対し、皮肉にもこうした人たちが順調にキャリアを築いていけるのです。

かくいうPSW兼障害当事者である私も「この病気の人はこういう傾向にある」くらいの表現は平然と普段の会話で使っているんですけどね。お後がよろしいようで。

ホンマ気をつけよ。自己覚知自己覚知……。

1994年生まれ。いじめや家庭内不和で精神障害(双極性障害Ⅱ型)を発症しながらも、福祉系の大学で4年間福祉について学び精神保健福祉士を取得。現在は大分県別府市にある訪問介護事業所で事務・広報の仕事をしている。
ライターとしての心がけは「しんどいことを楽しく伝える」こと。自身の体験を専門職と当事者両方の視点で語っていきたい。

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