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時には図々しさも必要?全盲の私が考える「自立」のあり方

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2023.1.10

自立。それは何でも1人でこなせなければ成しえないもの。不器用で人の手を煩わせるばかりの全盲の自分には、とてもできそうにない。以前はそう思い込み、不安を抱えていた。今の私が考える自立とはどのようなものか。そのお話をしようと思う。

執筆:山田 菜深子

自立。それは何でも1人でこなせなければ成しえないもの。不器用で人の手を煩わせるばかりの全盲の自分には、とてもできそうにない。

以前はそう思い込み、不安を抱えていた。

だが、同じ障害を持つ仲間のかっこいい生き方に触れたことで、私の価値観に変化が起きた。こういうのもありなんだ、と。

今の私が考える自立とはどのようなものか。そのお話をしようと思う。


不安を抱いた学生時代

「自分でやりなさい」
「自分で考えなさい」

盲学校に通っていた頃、そんな言葉を何度となく耳にした。今でも記憶にしっかりと刻み込まれている。

学校の中では何かとみんなが手を貸してくれるけど、社会に出たらそうはいかない。世の中そんなに優しくないんだから。それが先生の教えだったのだ。

目の見えない子どもは確かに、周囲の助けを借りることが多い。「大変だろうから」と大人たちに何でもやってもらえて、甘えがちなところもあるかもしれない。

これでは何もできないまま成長し、何もできない大人になってしまう。そういう事態を阻止するため、先生はしきりに「自分で……」と忠告したのだろう。

今ならその意図は十分に理解できる。ただ、当時の私は、「自分で……」が始まるたびに、苦い薬でも飲んだような不快感を覚えた。不安だったからだ。

何でもできるようになって、自立を果たさななければいけない。そのプレッシャーに押しつぶされそうだった。

もちろん、できることは自分の力でやりたいと思っていた。むしろ人の助けなどあまり借りたくなかった。だが不器用な私にはそれをうまくこなせる自信がなかったのだ。

卒業した後はどうすればいいのか。こんな自分に行き場などあるのだろうか。いつもそう感じていた。


衝撃を与えてくれた仲間の生き方

不安は消えなくても、十分な準備などできていなくても、卒業の時はやってくる。私は盲学校を去り、大学に進んだ。その大学も卒業し、優しくないといわれる社会に出ることとなった。運よく進むべき道が見つかり、歩き出したのだ。

ところが、足取りはおぼつかない。自分の力で生きていかなければいけないと思うのに、どう生きればいいのかわからない。何かしようとしてもつまずき、結局人の手を煩わせるばかり。罪悪感が募った。

そんな私の価値観に変化が起きたのは、この悶々とした日々に疲れ始めていた頃のことだ。障害のある人とない人が交流する、そういった趣旨で行われたキャンプに参加したのがきっかけだった。

「部屋まで案内してもらえますか?」
「ここの後片付けは全部皆さんにお願いしますね」

リーダー的存在の全盲の男性は、変に遠慮することなく周囲に助けを求めていた。ここは自分の出番ではないと判断すれば、堂々と仕事を任せていた。

「なんか喉に違和感あるな、誰か飴持ってませんか?」なんてことも、躊躇せず言う。衝撃を受けた。私の心は揺さぶられた。私は慣れない環境での集団行動に怯えて小さくなっているばかりだったのに、彼は違ったのだ。

さらに印象的だったのは、彼がただ助けてもらっているだけではなかったというところである。誰かが「乗り物酔いしたかも」などといいだせば、「ちょっと見せて」と進んで鍼治療をしてあげる。ギターを演奏して歌を歌い、場を盛り上げたりもする。

彼はみんなから慕われていた。まさに「自立している」という雰囲気。かっこいい生き方がそこにあった。

なるほど、そうか。私は納得した。こういう生き方もありなのだ。こうすれば、「自分はダメだな」と落ち込むことも少なくなるに違いない。

自分の足にぴったりの、歩きやすい靴を手に入れた。それくらい爽快な気分になり、私はそれまでの生き方を見直すことにしたのだった。


頼ってこそ自立は実現する

1人で何でもこなせるようにならなければいけない。そうしなければ自立などできない。以前はそう思っていた。だが、今の私の考え方は違う。

まずは進みたい道を自分の意思で選ぶ。そしてその道を歩む中でサポートがほしいと感じたときには、迷わず誰かに頼る。そうすることが自立への第1歩となるのである。

もちろんやみくもに頼っていいというわけではない。「相手に不快な思いをさせない」というのが大前提。そこには十分注意しなければならない。

ただ、時にはいい意味での「図々しさ」も必要になる。こんな言い方をすると叱られるかもしれないけれど、図々しさがあってこそ自立は実現する、とさえ私は思っている。

またその上で、今できることや得意なことには真摯に取り組む、これも大切。そうすれば、それが誰かの助けになるかもしれない。

何でも1人でやろうとして右往左往するより、誰かと助け合ったほうが気持ちがいい。効率もいい。

あのときそう気付いた私は今、本当の意味での自立に向けて、ゆっくりと歩を進めている。まだまだ足取りはおぼつかないけれど。

1987年生まれ。先天性全盲。「必死に頑張らない」がモットーであるが野望は大きく、世界を変えたい思いでライター活動を行っている。Amazon Kindleにてエッセイ集『全力でゆるく生きる~全盲女子のまったりDays~』を配信中。またブログやYouTubeで全盲当事者のリアルな日常を発信中。

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