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視覚障害者が直面するタッチパネル問題、当事者が望む解決策とは?

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2023.6.24

飲食店や医療機関などさまざまな場所でよく見かけるようになった、タッチパネル式端末。私たちはいつも、これに助けられている。ところが全盲の私としては、こういった端末の導入を100パーセント喜ぶことはできない。せっかくの便利さが、不便さを生み出してしまうことがあるのだ。それを解決する方法は何か。考えてみた。

執筆:山田 菜深子

飲食店や医療機関などさまざまな場所でよく見かけるようになった、タッチパネル式端末。私たちはいつも、これに助けられている。

ところが全盲の私としては、こういった端末の導入を100パーセント喜ぶことはできない。せっかくの便利さが、不便さを生み出してしまうことがあるのだ。

それを解決する方法は何か。考えてみた。

注文しやすくなったはずなのに

数年前、行きつけの飲食店を訪れると、テーブルにタブレット端末が置かれていた。「注文の際にお使いください」とのこと。セルフオーダーシステムが導入されたのだ。

私の心は躍った。嬉しかったのだ。きっと、これまで以上にお店の居心地がよくなる。そんな気がしたのである。

その予想は当たっていた。混雑しているときは何とも落ち着けない雰囲気がお店に流れていたものだが、セルフオーダー導入後はそれがなくなった。店員さんの手間が減り、余裕が生まれたからだろう。

わざわざ店員さんを呼ぶ必要がなくなったというのも、人見知りの激しい私にとって嬉しいところだ。ずいぶん気が楽になった。

人手不足といわれる昨今、セルフオーダーはなくてはならないもの。こういったシステムを導入する飲食店は増えてきているが、私は大いに歓迎している。

ところが、である。全盲の私としては、100パーセント喜ぶことはできない。注文用のタッチパネル式端末は、基本的に私1人では操作できないのだ。

もちろん、誰かの助けを借りられるのであればそれほど問題はない。例えば私の場合、行きつけの飲食店では夫がタブレット操作を担当している。またそこでは口頭での注文も可能。店員さんが丁寧に対応してくださるので、私1人でも安心して入店できそうだ。

だが、せっかく便利なタブレットがあるのに自分の手で自由に操作できないというのはもったいない。夫や店員さんにメニューを読み上げてもらうのは手間のかかる作業。その役目をタブレットに任せられたらどれほど助かるかわからないのに、それができないなんて残念ではないか。

それに、セルフオーダーが主流という中で店員さんに助けを求めることになると、どうも気が引ける。助けてもらうのは悪いことではないが、「これがタッチパネルじゃなかったら、誰の手も借りなくて済んだかもしれないのに!」といたたまれない気持ちになってしまうのである。

こんな状況なので、タッチパネル操作の必要な飲食店には1人で行きづらい。技術は確実に進歩してきているのに、私にとっては不便さが増しているのだ。

暗証番号は秘密でしょ?

マイナンバーカードを使用するときにも、この問題に遭遇する。医療機関や薬局にあるカードリーダーはタッチパネル式になっているのだ。

ここには飲食店以上に切実な課題がある。顔認証かタッチパネルでの暗証番号入力が必要になるのだが、見えない私にとって顔認証はハードルが高い。そうなると暗証番号を入力するしかないが、その場合は助けを求めなければならない。誰かに暗証番号を伝えなければならないということだ。

暗証番号。これは秘密にしなければいけない情報のはず。私だって秘密にしたい。どれだけ信頼できる人であってもそれは変わらない。

番号を知られたところでカードを渡さなければ悪用されることはないかもしれないが、セキュリティ的に不安がないわけではない。ヘルパーさんなどと行動を共にしているときでも、入力作業は自分の手で行いたいのである。

個人のスマホで操作したい

というわけで、私は願っている。「ほかの選択肢も検討していただきたい」と。

では、視覚障害者にとって、どんな選択肢が望ましいのか。いろいろな方法が考えられると思うが、私が特にプッシュしたいのは、「利用者個人のスマホを活用する」というものだ。

飲食店での注文などが普段利用している個人スマホでできるシステムになっていれば、音声読み上げ機能を使いながらスムーズに行えるはずだ。これなら備え付けの端末に直接触れる必要がないので衛生的というメリットもある。視覚障害者でない方にとっても安心かもしれない。

とはいえ、すべての視覚障害者がスマホを使いこなしているというわけではない。スマホは視覚障害者の可能性を大きく広げてくれるものであるが、「慣れるまでのハードルの高さ」が課題となっている。初めの一歩が踏み出しづらいのだ。

私は以前視覚障害者向けのiPad講習会に参加したことがあるが、そのような学びの場をどの地域でも充実させるなど、スマホを生活に取り入れるためのサポートについても検討が必要だ。

「誰にとっても使いやすく」。新しいものを取り入れる際には、必ずこの視点を持って進めていただきたい。私自身も、この大切な視点を常に心に留めておきたいと思っている。

1987年生まれ。先天性全盲。「必死に頑張らない」がモットーであるが野望は大きく、世界を変えたい思いでライター活動を行っている。Amazon Kindleにてエッセイ集『全力でゆるく生きる~全盲女子のまったりDays~』を配信中。またブログやYouTubeで全盲当事者のリアルな日常を発信中。

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