厳しい訓練を乗り越えて素晴らしい相棒に!私の白杖体験談
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2023.12.2
視覚障害者が外出時に使用する白杖。これは命を守るための大事なものです。白杖にはどんな役割があるのか。どのようにして使い方を身につけるのか。綴ってみます。
執筆:山田 菜深子
視覚障害者が外出時に使用する白杖。これは命を守るための大事なものです。
全盲の私は子どもの頃に訓練を受け、白杖の使い方を学んだのですが、大事なものであるだけにずいぶん苦労しました。でもそのおかげで、今は行動範囲を広げることができています。
白杖にはどんな役割があるのか、どのようにして使い方を身につけるのか、綴ってみます。
大きな3つの役割
外出時の必需品を3つ挙げるとすれば、私の場合はスマホに財布、そして白い杖。特にこの杖、白杖(はくじょう)と呼ぶのですが、とっても大事なものなんです。忘れて出かけると大変なことになります(と言いつつ忘れそうになることも時々ありますが)。
どうしてそんなに白杖が大事なのか。それは、主に3つの役割があるからです。
まず1つ目の役割は、「路面の情報を収集する」。これから踏み出す先は果たして安全なのか、どんな状態なのか。点字ブロックはあるのか。そもそもそこは道なのか。そういったことを、地面をたたいたり滑らせたりして確認するんです。
また、地面をたたくと音がしますが、その音の反響によって「近くに壁がありそうだな」などと判断できることもあります(私は苦手ですが)。
さらに地面をたたく音は、自分の存在を周囲に知らせるという意味でも役立ちます。
2つ目の役割は、「安全を確保する」。白杖を身体の前で構えて歩くことで、障害物や段差を事前に発見でき、けがや事故を防げます。
3つ目の役割は、「視覚障害があることを周囲に知らせる」。援助を必要としていても、そのことは周囲に伝わりにくい場合があります。そのため、視覚障害者のシンボルとして白杖を持つことには大きな意味があるんです。
ちなみに、白杖を持つのは全く見えていない方だけと思われがちですが、そうではありません。弱視の方も使用します。
また視覚障害者だけでなく、聴覚障害者や肢体不自由者が使用する場合もあります。
頭混乱の歩行訓練
私の場合、白杖の使い方は盲学校で学びました。12年間みっちり、歩行の訓練を受けたんです。はっきり言ってこの訓練、大嫌いでした。だって厳しいんだもん。
白杖で右前方を確認しながら左足を前に出す。左前方を確認しながら右足を前に出す。これが基本なのですが、最初はそれを覚えるのに一苦労。白杖で右前方を確かめようとするとついつい右足を一緒に出してしまい、先生から注意されました。
で、やっとそれを覚えたと思っても、安心はできません。白杖は正しく持ちなさい。おへその前で構えなさい。振り方にも気をつけなさい。そんなんじゃ車にひかれるよ、周りの状況にも気を配りなさい。どんどん言葉が飛んできます。私の頭は混乱状態でした。
もう、先生なんかこの白杖でパンチしてやりたい。そんな気分になりながら、何度も何度も歩く練習をしたものです。
とはいえ、考えてみれば厳しいのは当然のこと。白杖を使っての単独歩行は危険と隣り合わせ。命に関わる重大事です。大人になったとき困ることが少なくなるようにと、先生方はビシビシ鍛えてくださったんですね。感謝しなければなりません。
おかげで白杖がうまく使えるようになった、とまでは言えませんが、あの訓練があってよかったとは思っています。今のところ痛い思いをすることなく外出できていますし、行動範囲も広がっていますし。白杖は私の素晴らしい相棒となっています。
賛否分かれるシグナル
ところで、「白杖SOSシグナル」というものをご存じでしょうか。これは、視覚障害者が困っているときの合図。白杖を頭上50cm程度に掲げ、周囲に助けを求めるというものです。
このようなシグナルがあれば助けを求めていることが伝わりやすいし、実際にこれのおかげで難を逃れたという方もいらっしゃるようで、普及活動も進められています。
ただ、実はこれ、賛否が分かれているんです。前述したようなメリットはありますが、白杖の先を地面から離したままでいるのはリスクの高い行為。私も怖くてできません。
またこのシグナルが定着すると、「シグナルでSOSを出していない人は困っていないんだ」と認識されてしまう恐れもあります。そうとは限らないのに。
わかりやすいシグナルというのは便利なのですが、そういうものを必要としない、そんな社会を目指したい。私はそう感じています。
皆さんにお願い
1歩外に出れば、危険はいっぱい。それでもやっぱり、今後も白杖を持って、まだ見たことのない世界をもっともっと見に行きたい。それが私のささやかな夢です。
そこで、それを安心して実現させるため、最後に皆さんに1つだけお願いをしてこの記事を締めようと思います。
歩きスマホ。これは絶対、絶対やめてくださいね。あなた自身のためにも。