出来ないことを支え合う。重度障害者の僕の家族と障害受容。
1 1
2023.12.26
恐らく多くの人は「自分が障害者になるかもしれない」ということを考えないまま、日々生活をしていると思います。僕自身も30歳で障害を抱えるまで、左半身が不自由になるとは考えもしませんでした。
執筆:山田 稔
恐らく多くの人は「自分が障害者になるかもしれない」ということを考えないまま、日々生活をしていると思います。
僕自身も30歳で脳出血になりましたが、障害を抱えるまでは不眠不休で仕事ばかりしていました。無理がたたって体調を崩すことはありましたが、まさか左半身が不自由になり、左腕が一生動かなくなるなんてことは考えもしませんでした。
しかし、平均寿命が延びて長く生きられるようになったことを考えると、誰にでもハンディキャップを抱えながら生きる可能性はあるように思います。
僕のように病気の発症をきっかけに身体に障害を抱える場合もあるでしょうし、精神的なストレスによる病かもしれません。生まれつき抱えていたものがきっかけとなり、ある時点から障害者になる人もいるのです。
僕は30歳のときに脳出血が原因で左手と左足が動かなくなりました。身体だけではなく、高次脳機能障害という脳の障害も抱えています。
僕は自分の障害の受容もままならないうちに結婚という人生の大きなターニングポイントを迎えました。奥さんには二人の連れ子がいたので、僕は結婚と同時に二人の子供を持つことになりました。
結婚当初、長女は中1で長男は小6と思春期の真っ只中。いきなり重度障害者の父親ができて一緒に住むのは難易度が高かったと思います。正直に言えば、最初から家族との関係性が今のようにうまくいっていたわけではありません。
まず、家族で障害を受容していく上で僕が最も大切にしていたのは自分自身の障害受容です。これは障害を抱えて生きる上で最も大切なもののうちの一つだと思っています。
僕の場合、身体に起こったハンディキャップをなかなか乗り越えられず、後ろ向きになっていた日々もありました。
ただ、どれだけ落ち込んだところで、出来ないものは出来ません。どんなに工夫しても努力しても出来るようにはならないのです。出来るようになることには限界があるのです。
僕の左腕は努力や運や根性で動くようにはならないのです。それが事実です。そしてそれが障害というものでもあると思います。
だからその時は出来ないことを受け入れるしかありません。ここが重要です。
僕は「動かないものは仕方がない。これからは右腕を使って生きていこう」と決めてから、少しずつ心構えが変わった気がします。
出来ないことを受け入れられれば、対策を練ることが出来ます。また、出来ないことを周りに示すことでアドバイスを求めたりヘルプ信号を出したりすることもできます。
その上で、出来る限り失ったものを取り戻す努力をしていけば、障害受容は時間とともに出来てくるものだと信じています。
だからこそ僕は突然、ハンディキャップを負うことになった場合でも、自分が一度決めたことはなるべく継続することをおすすめしたいです。内容はどんなに些細なことでも、他人から見たら大したことじゃなかったとしてもいいのです。一度決めたことを頑張り続けることが自分のためになると、自分の経験から知っているからです。
家族の障害受容について考えるとき、自分の努力だけではどうにもならない部分もあります。
僕の場合、高次脳機能障害の影響で喜怒哀楽が抑えきれず態度が横柄になってしまうことがよくあり、それが結果的に家族をいらだたせることになっていました。家族にとって、僕の感情のコントロールがなかなかできないところや、横柄な態度をとってしまうことはなかなか受け入れがたかったのだと思います。
そのことについて何度も衝突しましたし、今でも横柄な態度を注意されることもありますが、少しずつ家族の中で考え方は変わってきたように感じます。
これまで僕は自分の出来ないことを恥ずかしがらずに子供たちにも見せて接してきました。そうした中で、長女と長男は二人とも「障害者は何かが劣っている存在ではなく、ただ出来ないことが他の人より多い人なんだ」という考え方に変わってきたのだと思います。
「出来ないことは誰にでもある。障害の有無は関係ない。出来ないことがあるのならそれは家族で助け合おう」というすごくシンプルな答えで我が家は成り立っているのです。障害は関係ないのです。出来ないことを支え合う。この方式なのです。
ここに奥さんの「出来ないからとすぐに諦めない」「工夫すれば片手でもできるかも」と「出来ることを怠れば人は退化する」も加わって我が家の障害受容は進んできたのです。
こんな風に家族は僕の出来ないことへの理解を深めて、いい意味での諦めが出てきたのかもしれません。現在進行形ではありますが、少しずつ僕の障害を受け入れていってもらっています。
今回は「もしも自分が障害者になったら」ということを少しでもイメージできればと思い、経験談も含めてコラムにさせて頂きました。何か参考になればうれしいです。