「障害をどこまで伝えるか?」は永遠の課題
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2022.9.21
障害と言っても多種多様で、同じ病気でも人それぞれ困ることは変わります。
それこそ見た目でわかるか、も大きく異なります。
私の場合は生まれつきの障害ですが、“周りの目”の変化を経験しました。
その経緯もありつつ、直面したことを書いてみようと思います。
執筆:山口 真未 Mami Yamaguchi
そもそも障害ってパッと見てわかるものもあれば、全く言われるまで気付かなかったというパターンもあります。
実は、私自身はどちらも経験しています。
これも生まれつきの病気が進行性だからこそ、かもしれません。
悪くいえば、進行したからこそ経験したこと。
その中で、生まれつき病気と付き合ってきた私でも、未だに正解へ導けないことがあります。
そもそも障害ってオープンにすべき?
障害をオープンにするべきか?はずっと思っていること。
初めにいうと、私自身はどちらでも良い面・悪い面があると思っています。
もちろん前提として、『必然ではない場面なら』という条件付き。
例えば私が過去、会社で仕事をしていたときは「障害があること」を伝えることが必須でした。
自分がどの仕事ならできるのかを説明するためには、「障害のためにできないこと」を説明する必要があります。
さすがに仕事に影響のあるような障害の内容も話さず、会社に全て任せて私ができる仕事を割り振ってもらおう、なんて難しいはず。
他にも前にコラムで書かせていただきましたが、学校などの集団生活では自分を守るためにも必要な場合もあります。
特に周りに気を付けて欲しいことがある場合は、オープンにすることも大切。
ですが、こんな必然の場面ばかりでもないですよね。
ちょっとだけ顔を合わせるご近所さん、たまに話す友達。
深いお付き合いではないけど、顔と名前くらいは知っている、と言う人はたくさんいます。
その人たちにまで、障害を全てオープンにするか?というと少し違うとも思います。
実は私自身、20歳過ぎまで、杖を使うことはありませんでした。
もちろん走ることや階段をスムーズに上がる等はできなかったのですが、普通に立って歩いている分には、ほぼ気付かれない。
知り合いにも「よ~く歩く姿を見れば、歩き方とかで足が悪いって気付けるけど、パッと見じゃわからない」と言われていました。
だからこそ人混みなどは、ぶつかって転ばないよう注意が必要。
また電車では席が空いているのに、座らない私を見て怪訝な顔をされたこともあります。
その反面、杖を使うようになってからは、パッと見て足が悪いことはわかる状態。
障害の内容、病気の状態がわからなくても、杖がちょっと特殊なので一時的なケガではないかも、とまで想像できちゃいます。
ある意味、障害をオープンにしているのと同じ状態ですよね。
特に杖を使うようになってから、周りの注目も集めますし、人から優しさを受け取る場面も増えました。
それに歩くのが遅い、エスカレーターに乗るのに時間をかけて止まっても、周りが自然と気付いてくれます。
昔はそれこそ障害が伝わらずに、ちっと舌打ちを受けたこともあるので、良い面だなとも思っています。
ただオープンにするって「誰に」もありますが、「どこまで」も悩みどころです。
どこまで話すかは「永遠の課題」
私は走れない、屈めない、階段が大変などなど色々とできないことがありますが、会社にも全てを伝えていたかというと、違う面もあります。
もちろん仕事に支障が出るようなものは、全てお伝えをしていました。
ただある程度、環境が整ってしまえば、毎日の仕事上ではあえて伝えていないことも。
その代表格がイスに座ったときに、立ち上がるのが大変だ、ということ。
会社の自分のイスは高さを変えられたので、自分の立ちやすい高さにしていました。
ときどきある会議で別の机とイスでも、たまたま全ての部屋が同じもので揃えられていたので、大丈夫であることが1度確認できればOK。
会社のトイレもバリアフリー対応で、手すりが設置されていたため問題なし。
通勤は短い距離なので、電車で立ちっぱなしでも大丈夫。
こんな風に、色々とイスから立ち上がるという場面はありますが、一度クリアしてしまえば私自身も特に困ることはありません。
そのため社内の異動などで新しく働くことになる上司や先輩、同僚などに、その度に説明をする必要もないのが現実。
ただ通常では問題ないことも、ちょっと違うことが混ざるだけで崩れます。
例えば、出張で別の場所で会議をするとき。
たったこれだけで、出かけるための電車ルート、会議室のイスの状況など不安要素が満載。
さらに一番困るのは、トイレ問題でした。
一番困ったこと
今ではバリアフリー化が進んできたとはいえ、まだまだ不十分な点もありますよね。
特に大きな商業施設やオフィスビルなら用意されていても、小さな場所ではまだまだです。
仕事上でも小さめな場所では、当然、バリアフリートイレはありません。
またバリアフリートイレでも、私の場合はときどき困ることも。
それは座面が低すぎることで、立ち上がるのがとっても難しいこと。
低すぎると手すりがあっても、自力では不可能。
何度か外出先で痛い目にあい、トイレの中から家族にヘルプコールをしたこともあります。
ただこんなこと会社の同僚などに事前に話すべきか、と言われれば難しいですよね。
出張先でイスから立てなかったときは、何度かほとんど名前も知らないような人に助けてもらったことはあります。
ここは丁寧に事情を説明すれば、助けてもらえますよね。
ただトイレとなれば、そう簡単にはいきません。
中でも一番の悩みは、飲み会のお誘いでした。
私自身は飲み会の雰囲気も、お酒も大好きです。
会社のメンバーとグダグダと話すのも、意外と好きな時間でした。
ただお酒が進めば、当然トイレに行きたくなるもの。
それこそ小さな居酒屋で、バリアフリー完備のトイレなど難しいですよね。
さすがに同僚に、トイレのサポートを頼むわけにもいかない。
病気が少しずつ進行して、普通のトイレでは立ち上がるのが難しくなってからは、飲み会のお誘いも断る回数が増えました。
あらかじめお店がわかっていれば行けましたが、それこそ「今日、飲みに行く?」というお誘いは基本的に危険のサイン。
とはいえ、トイレ問題をオープンにしていなかったので、ただただお断りすることに。
この問題までオープンにするかは、なかなか難しいですし、聞く側も戸惑う話題のはず。
正直、正解も完ぺきな解決策もわからない
今回はトイレというセンシティブな話題ですが、さらに病気が進行すれば、より話すのが難しい話題が増えていくのだろうなと思っています。
でも全ての細かい部分までを、全員に話すことが違うのも事実。
正直30年以上、障害者として生きてきてもこの答えはわかりません。
ただ一つだけ、言えること。
「できないこと」を上手く伝えるコミュニケーション能力は、持っていて損はないはず。
例えば私の飲み会を断る言葉も工夫したことで、次も誘ってもらえるくらいには、角が立たない形でした。
ストレートに伝えることも大切ですが、相手が人であるからには、言い方・伝え方の工夫は大事だなと思っています。
とはいえ、どこまで伝えるか、という解決策にはなりません。
ここはこれからも障害者である以上、その時々で悩みつつ、その時にベストな答えを見つけたいなと思います。
Text by
Mami Yamaguchi
山口 真未
1990年生まれ。障害者ファイナンシャルプランナー(FP)。生まれつき”筋ジスの仲間”と言われつつも、正式な「ベスレムミオパチー」の診断は大人になってから。高卒・障害者雇用で大手鉄道会社の事務で10年以上勤務したが、病気の悪化により退職。そこで改めて、お金の大切さに気付く。現在は、障害者だからあるお金の悩みと寄り添いたく、障害者FPとして活動中。