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気づきのパワーと声かけの勇気~階段を「上る」と「下りる」、どちらが楽か?

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2023.9.25

杖をついている人を見かけたとき、どう思いますか?
何が大変そう、と感じるでしょうか。

でも実際のところ、見ただけでは、その人の本当の状況はわからないので、どうしていいかわからないという方も多いのではないでしょうか。だからこそ、声をかけるのはとっても勇気がいることかもしれません。

先日、出かけ先で嬉しい「声かけ」をしてもらったので、紹介したいと思います。

執筆:山口 真未 Mami Yamaguchi

私自身の病気は生まれつきですが、徐々に悪くなっています。

今は外出時に使っている杖を使い始めたのは20歳ころ。学生時代は全く使っていなかったので、杖を使うことで特に人からの見え方が変わると実感しています。

当然と言えば当然ですが、人が歩く姿を常にじっくり観察はしないですよね。そのため杖を使う前は、少し人より遅い歩き方で舌打ちされたことも、不用意に人とぶつかって転ぶことも度々ありました。

でも今は杖が目印になり、なんとなく察してもらえることも多いです。ただ杖を使うだけで、老若男女問わず「足が悪いだろうな」とは思いますよね。

では、杖を使っている人をみて「どんな動作が難しいのだろう?」と考えたことはありますか?

歩くのが不安定だから杖を使っている?ゆっくりしか歩けないから目印にするために?

色々な人が、色々なタイプの杖を使っていますが、人それぞれ理由があると思います。

私自身は歩くのが不安定になり杖を使い始めましたが、元々は筋力の病気です。そのため歩く以上に難しいこともたくさんあります。

ただしそれは私が口にして初めてわかること。他の人から見てもわかりません。

だからこそ先日、出かけ先であった出来事がとても嬉しかったのです。

お出かけも一苦労

私の趣味の一つに、音楽があります。ミュージカルなどを観に行くことも大好きです!

ただミュージカルや観劇などの会場には、階段がつきもの。そのため、一人で行くのは難しく、家族や誰か付き添いの人と一緒に行きます。

先日、家族と一緒にアイスショーを見に行った時のことです。

アイスショーの会場は、イメージとしては野球のスタジアムなどに似ています。1階席、2階席、3階席とあったなかで、私は2階席。しかも2階席の中でも、1番上の列でした。

2階がグラウンドフロア(地上からつながっている)なのは良かったものの、そこから席までは階段のみ。

一応、ゆっくりとなら階段を上がれるため、「いざ覚悟を決めて…!」と思った時のこと。

「もし階段を下りる方が楽でしたら、上からご案内もできますがいかがでしょうか?」
とスタッフの人から声をかけられたのです。

私はありがたくその申し出を受け入れて、無事に席には数段階段を下りるのみでたどり着けました。

でもこの声掛け、実は私にとっては初めてのことだったのです。

階段は上るのが楽か?下りるのが楽か?

私自身、階段を上れるか?と聞かれたら、基本的にはNOと答えています。

実際には手すりや体重を乗せられる壁等があれば、1階分程度の長さならギリギリ可能ですが、トラブル防止のために階段はNGと答えています。

ただ多くの人は、ここで階段がNGだと、上りも下りもダメなんだろうな、と考えると思います。そして上りも下りも同じくらい大変なんだろうな、と。

しかし実際には、階段の上りと下り、使う筋肉や気を付けるポイントって全く異なります。

普通、階段を使うとき意識しづらいと思いますが、例えば重い荷物を持っているとき、筋肉痛などの時を思い出してみてください。人それぞれ楽なのがどちらかは変わると思いますが、自然と気を付けるポイントは変わっていますよね。

そして、私のように筋肉が極限まで弱い状態だと、皆さんのイレギュラー(重い荷物を持っているとき、筋肉痛)が日常です。

そのイレギュラーな状態で私自身は、階段を上るより下りる方が圧倒的に楽チンなのです。もちろん限度はあるので、1階分くらいがギリギリですが…

同じ階段を上るなら、下りる方を選択したいのです。

この選択のために、スタッフの人などに声掛けして頂いたことは、今までに一度もありませんでした。

例えば階段自体を回避できる場合は、エレベーターやスロープを案内してもらったことは何度もあります。

ただ今回のように、そもそも階段自体を避けられないような場合は…スタッフの人は基本的に、手助けのしようもないですよね。

例えば過去に私が階段をゆっくり上れるよう、人員整理をしていただいたことはありました。

でも今回のように「階段を上るのと下りるの、どちらが楽ですか?」と聞かれたことは初めてでした。

もちろん今回の会場のように、上からも下からも席までたどり着ける会場も多くはないかもしれません。しかし、毎日のように利用する場所でない限り、会場の状況はわからないですよね。

今回の声掛けに対しても、私の返事の第一声は「え?上からも行けるのですか!?」でした。

会場の地図だけでは、分かりづらい部分だからこそ、スタッフの人の気づかいや思考力が試される部分かもしれません。

思考力と勇気をもって

杖をついている人を見たとき、おそらく多くの人が「体が不自由なんだな」「足が悪いのかな」と思うのではないでしょうか。

ただそれ以上、何がどう難しいのか、不自由なのかは、なかなか見ただけでは判断しづらいですよね。

それは、当然だと思います。私も他の人が杖をついていたとしても、その人の本当の大変さはわかりません。

でもわからないことを、わからないで終わりにしていいかは、場面によって変わるかなと思っています。

例えば、今回の会場のスタッフさんのように、もし別ルートがあるなら「提案だけでもしてみようかな」と思ってくれること。

またその声かけをする勇気を持ってもらえることは、私のような不自由さを抱えている人にとっては、とても嬉しいことです。

もちろん今回の私のように、提案が全て上手くいくとは限らないと思います。

もしかしたら「階段を上る方が下りるよりも楽チン」という人もいるかもしれません。

どちらが楽かなんて、人によるからこそ、提案そのものが価値を生みます。

今回は、「階段は大変そうだな」で終わらずに、少しでも楽に行けるのは階段の上りか、下りか、と考えてくださったからこその提案だったと思います。

そして勇気がいるであろう、わざわざ声をかけてくださったことに本当に感謝をしています。

おそらく今回の事例に限らず、人に声をかける場面ってありますよね。

電車で席を譲る、気分が悪そうな人へ声をかけるなど、どれも知らない人にいきなりなので勇気がいります。

でも「大変そうだな」で終わらずに考えてくれること、声をかけてくれること、どちらも受けた方としては嬉しいし、感謝しかないです。

もしそんな場面に出くわしたら、気づきと思考力、そして勇気の声掛けをしてもらえると嬉しいなと思います。

1990年生まれ。障害者ファイナンシャルプランナー(FP)。生まれつき”筋ジスの仲間”と言われつつも、正式な「ベスレムミオパチー」の診断は大人になってから。高卒・障害者雇用で大手鉄道会社の事務で10年以上勤務したが、病気の悪化により退職。そこで改めて、お金の大切さに気付く。現在は、障害者だからあるお金の悩みと寄り添いたく、障害者FPとして活動中。

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