難病の私が働くためのこだわり
~会社員生活10年間を支えた知恵と工夫
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2022.6.15
「会社員で働く=フルタイムで働く」を想像しますよね。
色々な働き方があるとはいえ、会社員の働き方は固定されがち。
今回は、私が10年間働いた、会社員のころの工夫や意識したことをお話します。
これから働きたい方、今働いている方へ少しでも知恵になれば、の想いを込めて。
執筆:山口 真未 Mami Yamaguchi
週5日、1日8時間。
多くの会社員の方が、働く日数と時間ですよね。
フレックスタイム制や在宅勤務など、色々な制度があるとはいえ、働くこと自体は連続します。
1日ごとに休む、2時間に1回30分休憩などは、まだ難しいのが現状。
かくいう私自身も、3年前までは一会社員。ありがたくも高校卒業と同時に、障害者雇用の正社員で採用されました。
嬉しい反面、しっかり働くとなれば、私自身は細かな調整が必要でした。
スマホすら軽さ重視
私自身は、筋肉が人よりも弱い病気です。ただ比較的に症状が軽いため、歩けますし、パソコン作業は何不自由なくできます。
しかし出来ないことも、多くあります。
突然ですが皆さんにとって、重いモノって何キロですか?
5キロ?10キロ?
どんな形なのか、リュックのように背負えるのか、条件次第でも変わりますよね。
私自身も色々な条件で変わりますが、概ね2キロ以上のモノは厳しいのが現状です。そのため2リットルのペットボトルが、ギリギリ。
それも冷蔵庫から出す、持ち運ぶ、コップに注ぐはできます。でも床から持ち上げるとなれば、重すぎて出来ません。
さらに、ずっと持ち運ぶのは無理です。
いわゆる“激ヨワ筋肉”ゆえ、すぐに疲れの限界がきて床に落とすので、スーパーで買い物する間中なんて到底ムリ。
そのため普段から持ち歩くモノ、使うモノは厳選しています。
スマホ1つも大きくて見やすい、よりも軽いことを重視するくらい。
当然、会社へ通勤するときは、バッグの中身も「なるべく軽く」を意識していました。しかし中身の厳選にも限度があるので、優先順位を付けていたイメージです。
例えばお金はかかりますが、飲み物は会社の自販機で買うとかですね。または、マイボトルとティーバッグを持っていき、会社でお湯を沸かしていました。
また中身以上に、バッグ自体も軽いモノが必須!オシャレや可愛いより、軽いかどうか。
これは小学校のランドセルから、始まっていた基準でした。
両親が当時は珍しく、また少し高級な超軽量ランドセルをネットも普及していないような時代に探し出したことは、感謝しかありません。
1枚の洋服にもこだわりを
会社員で働くとき、バッグ以上に気を使っていたのが洋服でした。私の勤めていた会社では、スーツが基本。
スーツとブラウス、ストッキングというスタイルです。これもまた、私には制約のある洋服の1つ。
筋力が弱い、ということは、洋服の選択肢も限られます。洋服自体が伸縮してくれるか、少しゆったり目の洋服かの2択。それこそ体に沿ったピッタリ目のワイシャツなんて、選択肢にはなりません。
着替えが大変なだけなら、手伝ってもらえば?と思いますよね。
ただ私の病気は、筋肉が弱いこと。これは疲れやすさにも影響します。
筋肉は使うと、疲労が溜まりますよね。
例えば、1日思いっきり遊んだなぁって日は疲れて、家に帰ったらぐったりって経験あるはずです。
私にはそれが、日常生活でも起こること。筋肉の量が少ないため、1日に使える量に限界がある、というイメージでしょうか。
これが洋服一つにも影響していきます。「この洋服は動きづらい」、「このコートは重いな」とか、動きに負荷がかかることは、筋肉を使う量が増えてしまう。元々筋肉量が少ない私は、その小さな負荷が、大きな負担にもなります。
そのため洋服1つも、伸縮してくれるか、腕や足を動かすのに突っ張るような動かしづらさは無いかをチェック。
少しでも動きにくいな、と感じるものは、どんなに可愛い洋服でも買いません。特に仕事をするときに着る服は、より厳選しています。
なぜなら、仕事をするため。
ん?と思うかもしれませんが「仕事をする」とは、お給料に見合うかそれ以上の働きが大切ですよね。例えば私が可愛い洋服を着たから、ちょっと身体が動かしづらくて、とか。
仕事をするどころか、何しに来たの?となります。もちろん100%完璧な洋服はありませんが、ちょっとした積み重ね。
1つ1つの洋服の動きやすさをチェックしたり、スーツは伸縮性がないから上着は必要なときだけ着るなど。
洋服は本当に小さなことですが、会社で良いパフォーマンスを発揮するために、意識したことでした。
働くからこその対人関係
そして働く上で一番意識したことは、人との関係性。
私の病気が説明するには、ちょっと面倒だからでもあります。
筋肉が弱い病気、と一口で言えますが、出来ないことは?と聞かれると、線引きがとっても難しい。重いモノが持てない、階段は難しい、移動はちょっと大変。
どれくらいなのか、どこまでなのか、と説明が難しいのが現状です。だからこそ、これは難しい、あれは大変、と声に出していました。
自分でも線引きが難しいモノを、相手が勝手に察して助けてくれる、なんて奇跡ですよね。
線引きはしっかり、出来ることは「最後までやる」を貫き通します。
その代わり出来ないことは、最初から、または早めに出来ないと伝えます。誰しも後から実は・・・と言われたり、直前で言われたら嫌ですよね。
信頼関係のためにも、障害のことを言うことも一緒かな、と思っています。
そして私がずっと大切にしていること。
『障害のことは明るく・前向きに伝える』
相手との関係性にもよりますが、真面目に伝えることが全てでは無い、と思っています。特に障害となれば、聞く側も少し身構える内容のはず。
重いモノが持てないことは、「か弱いから箸より重いモノって持てなくて・・・」とか。移動が大変なことは、「持ってきてくれたら嬉しいなぁ、なんて」と、冗談交じりで明るく伝えます。
これだけですが、相手もしょうがないなぁって笑いながら手伝いやすくなりますよね。
その代わり出来ることは、精一杯の努力で障害は関係なく動きます。
私自身「頑張っていれば、見てくれる人はいる」は、真実だと実感しています。自然とお願いしなくても、助けてくれる、気に掛けてくれる人は増えていくから。
それこそ電話一本で、お願いせずとも運んでくれるなんて、ホントによくあったことです。自分の手を止めて、わざわざ違う階にいる私のところへ、私の用事のためだけに動いてくれる。
私はこの関係が「障害者だから助ける」ではなく、「私だから助ける」に変わったからこそだと思っています。会社員時代、これほど心強く、嬉しかった人との関係性は、今振り返っても感謝しかありません。
これも人に恵まれたこと。そして障害のことを明るく・前向きに伝えたからこそだと思っています。
どんなことも日々の積み重ね
できること、できないこと。
人それぞれ障害のこと、障害以外のことを理由にありますよね。
でも障害に関係なく、仕事で頼りにされることは嬉しいこと。
私の場合は、小さな努力と人との関係性を日々積み重ねたこともあって、とても有難い環境で働かせてもらいました。
1人の人として働く、役に立てる、「ありがとう」と言われる。
「そういえば障害のことなんて忘れてたな」という環境を作るのは、少しの心掛けと日々の積み重ねかもしれません。
Text by
Mami Yamaguchi
山口 真未
1990年生まれ。障害者ファイナンシャルプランナー(FP)。生まれつき”筋ジスの仲間”と言われつつも、正式な「ベスレムミオパチー」の診断は大人になってから。高卒・障害者雇用で大手鉄道会社の事務で10年以上勤務したが、病気の悪化により退職。そこで改めて、お金の大切さに気付く。現在は、障害者だからあるお金の悩みと寄り添いたく、障害者FPとして活動中。