障害者の「グレーゾーン」とは?
「できる」と「できない」の境界線
1 1
2023.7.5
「障害者」と言っても、その障害の度合いは人それぞれ。
また、同じ病気であっても人それぞれで、症状や状況は違います。
一言では言い表し難い障害ですが、そこには、より複雑なグレーゾーンが存在すると私は思っています。
今回は説明し難いグレーゾーンについて書いてみます。
執筆:山口 真未 Mami Yamaguchi
障害者にとって、人それぞれ「できること」「できないこと」がありますよね。
これは健常者の人でも、想像しやすいかと思います。
ただ明確に「できること」「できないこと」を区別できるものもあれば、その中間に位置するグレーな部分も多くあります。むしろグレーゾーンの方が、より幅広く深く存在すると言えるかもしれません。
ただし、そのグレーゾーンの説明は、私にとってはすごく難しいことの1つです。
グレーゾーンとは?
ここでは、私にとってのグレーゾーンを紹介しますね。
私自身の障害は、全身の筋力低下がおもな症状です。
首の力から足指の力まで、すべての筋力において同世代と比べて非常に弱いです。それどころか、4歳の姪っ子にも負けてしまいますし、最近では1歳の甥っ子の方が筋力あるのでは?と思うことさえあります。
普段の生活でも、さまざまな場面でグレーゾーンを経験しています。
例えば、階段などの段差に直面した場合です。今はまだ、手すりや壁があれば1階分の階段を昇ることができますが、段差の高さや床の状態によっては昇ることができないこともあります。
また、体調や疲労度によっても「できること」と「できないこと」が変わることがあります。私の場合、疲れが蓄積されると筋力の限界が早く訪れ、同じ日でも昇れる階段の数が減ることもあります。
実は階段1つとっても、これだけの難題があるため、安易に「階段は手すりがあれば大丈夫です」とは言えない状況なのです。
これが障害者のグレーゾーンの一例です。
グレーゾーンを的確に説明することは非常に難しいです。
さらに、私のように進行性の病気の場合は、昔はできたことでも現在はできないことがあるのも現実です。
ただ、私はグレーゾーンをすべて明らかにすべき!とは思っていません。
家族ですらあやふやなグレーゾーン
自分でも説明のしづらいグレーゾーンのこと、100%解決を望むことはムリ、と割り切りも大事だと思っています。
私の家族は30年以上一緒にいますが、この微妙な「できる」「できない」の加減は今でもわからないことが多いから。
とくに私の妹にいたっては、私が助けを求めない限りは気づかずに放置されることもあります。
ただ、これはこれで良いとも思っています。
私にはできないことが多いのは事実ですが、できることも多くあります。
グレーゾーンを気にしない、ということは、私ができることを尊重することにも繋がっていると考えているから。
相手によって、グレーゾーンの伝え方を変える
でも、できないことがあるのも事実。だからこそ私は自分でできる限り、言語化したり数字やわかりやすいものを使って説明することは、とくに仕事関係に対しては大事なことだと思っています。
私は、仕事関係の方には「階段を含め、どんな段差でも基本的にNG」と伝えています。
できる場合もありますが、難しいことも多いので、より安全な方を取るようにしています。障害に甘えるわけではなく、仕事である以上、自分一人の場面でも問題なくできるか?を優先した結果の答えです。
一方で、友達と出掛けるだけなら、「1階分の階段まではOK」と伝えています。友達が助けてくれますし、時間がかかることを伝えておけば、何とかなることも多いから。
そして、どちらの場合もより大切なのは、そもそもグレーゾーンがあることを知ってもらうことだと思っています。
自分の障害のことを説明するとき、その伝え方にも一工夫するだけで生活のしやすさは変わります。
私の階段の例で言うなら「手すりや寄りかかる壁があれば、1階分は昇れることが多いですが、段差の高さや状況によって昇れない場合もあります」と伝えれば、相手も気を付けないといけないな、と気づいてもらえますよね。
これは「1階分なら昇れます」と言っただけでは、たぶん伝わりません。
あいまいだからこそ、言葉にして伝える工夫を
障害者にとっては、「できる」と「できない」の境界線にグレーゾーンがあること、当たり前に思っている人も多いかもしれません。
しかし、健常者から見ると「できる」と言っていたことをやっていないのであれば、それが仕事の場合はサボりとも捉えられかねません。
それが障害でもあるのだと、自分から伝えておくことは仕事でも友達でも、人との関係性でも大事なことです。
グレーゾーンの存在はあいまいだからこそ、言葉にして伝える勇気も大切にしたいですね。
Text by
Mami Yamaguchi
山口 真未
1990年生まれ。障害者ファイナンシャルプランナー(FP)。生まれつき”筋ジスの仲間”と言われつつも、正式な「ベスレムミオパチー」の診断は大人になってから。高卒・障害者雇用で大手鉄道会社の事務で10年以上勤務したが、病気の悪化により退職。そこで改めて、お金の大切さに気付く。現在は、障害者だからあるお金の悩みと寄り添いたく、障害者FPとして活動中。